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足寄物語~Ashoro Stories その13 「あしょろ岐志会」

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足寄町は総面積 1,408.04㎢の内、「山林」が1,090.72㎢を占めている。そう言われてみれば、いや言われてみなくても辺りは山に囲まれ、森は四季折々に表情を変えて町を彩っている。自分が昔、住んでいた頃はそんな季節の移ろいなどには全く目も気も配る事なく、山に囲まれた生活に辟易していたものだ。だから今、そんな森の魅力に気付けた事は、足寄にUターンしてきて良かった事の1つだ。

 

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そんな「山林」の町、足寄だから役場の庁舎だってこれでもかというくらいに木をふんだんに使っている。外から見るとコンクリート打ちっぱなしの

都会的な印象なのだが、町内産のカラマツ材を使った庁舎内はその設えが素晴らしい。更に暖房は、町内で製造された「木質ペレット」を燃やしていて、いわゆる「地産地消」「サステナブル」を体現した町民自慢の庁舎なのだ。もちろんカラマツ材を使った施設は役場庁舎だけでなく、様々な公共施設が木のぬくもりを感じられる建物となって町内のいたる所に点在する。カラマツ材の加工技術も含め、建築好きの方ならこれらの施設を見学して歩くだけでも十分に楽しめるだろう。そしてお泊りはもちろん足寄のカラマツを使ったホテル・レウス・アショロへ!

なんだか観光案内のようになってしまったが、それだけ木のポテンシャルを活かした町づくりをしているのだ。

 

(役場庁舎1F)

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(ラワンぶきをイメージしたエントランスの吹き抜け)

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(町議会議場)

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(高齢者等複合施設「むすびれっじ」)

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(町営住宅)

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(ホテル・レウス・アショロ)

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足寄の木々を守り、利用し、育む人がいる。町の基幹産業である「林業」に携わる林業マンたちだ。彼らはまだ陽が明けきらぬ早朝から山に入り、四季を通して山の木々たちと格闘する。春は枝打ちからの植え付け。夏は下草刈り。秋口から地拵えに間伐。そして冬が我々の林業のイメージである

伐倒が始まる。夏は暑さと虫に耐え、冬はマイナス30度を下回る極寒の山の中で彼らは日々、山林と戦っている。そう戦っているのだ。

 

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足寄には「あしょろ岐志会(きしかい)」という林業マンの有志が集うグループがある。結成は2011年。会長を務める「佐野産業株式会社」の代表、「佐野大祐(さのだいすけ)」を中心に「宮口産業株式会社」造林課長の「佐々木昭彦(ささきあきひこ)」、「有限会社 三共木材」代表の「福田幸一(ふくだこういち)」の二人の副会長が脇を固める。佐野49歳、佐々木52歳、福田55歳、3人共もういいおじさんだが岐志会を結成した11年前はそこそこ若手だった。福田こーちゃんはそうでもなかったが・・・。

 

(右から佐野会長、佐々木副会長、福田副会長)

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この「あしょろ岐志会」の首脳3人は足寄生まれの足寄育ちで父親がそれぞれ林業に携わっていた。いわゆる家業を継いだ形になっているが、実はそれぞれ一度足寄を出て全く違う道を歩いている。会長の佐野大祐=さのだいさんは、足寄高校を卒業すると札幌の専門学校を経て洋服店に就職し店長まで務めた。佐々木昭彦副会長=あきちゃんは、実は自分とは愛冠という地区の幼馴染。昔は三角ベースをしたり、釣りをしたりした。今も彼の実家は愛冠にあるから毎週末のように遊んでおり、巷では「付き合っているのでは?」などという噂まで流れている。そんな仲である。いやいやいやいや付き合っている仲ではなく、幼馴染の仲という仲だ。そのあきちゃんも一度札幌で就職している。そして岐志会最年長の副会長、福田幸一=こーちゃんだって、そのルックスに似合わず(!?)グラフィックデザイナーとして札幌、帯広と合わせて15年近く活躍してきた。3人に、どうして林業の道へ?と

質問を投げかけると皆「うーん」と考え込み、「林業をやるぞ!」って意気込んで帰ってきた訳じゃないよねとの意見で一致した。もちろんそれぞれの事情は異なるが、子供の頃「絶対にやりたくない」と思っていた「林業」の道をそれぞれがそれぞれに歩んでいる。

 

 

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林業グループ「あしょろ岐志会」は2011年、当時の十勝総合振興局森林室足寄事務所の所長さんからの提案で結成された。その頃は他の町の林業関係者との交流もなく、「どんな道具を使って、どんな仕事をしているのか?」「自分たちが植え付けている苗木はどこでどんな風に育てられたものなのか?」などなど全く知らなかったという。だからそんな事を勉強するグループを作ってみてはどうか?という提案に佐野が興味を示し、佐々木、福田、そして林業以外の友人にも声を掛け6名で「あしょろ岐志会」を立ち上げた。名前の由来は「足寄の『山を支える志』を持った仲間たち」そして「若い力が結集し、活動する事が求められる『分岐点(岐路)』にあり、意識改革のために立ち上がる」この2つの意味が込められている。

 

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「あしょろ岐志会」には「五箇条」なるモットーがある。

 

1.思いついたら行動する

2.常に改善、即決断

3.アンテナは高く

4.対価は求めない

5.子どもに自慢できる父になる

 

この五箇条を元に当初の目標であった「勉強」以外にも様々な事に取り組み、町を盛り上げながらなによりも自分たちが楽しんでいる。それが彼らの

素晴らしいところだ。

 

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町内は元より、十勝管内の各町村から引っ張りだこの「伐倒デモンストレーション」は子供たちを初め、見たお客様は皆、大喜びしてくれるそうだ。

コロナ禍になる前は9月、10月の秋のイベントシーズンになると毎週末各地を飛び回り、休みがなくなる程だったという。他にも枝打ち体験や木工教室、植樹祭などを通じて林業の仕事を伝え、町を盛り上げたいという想いで活動をしているのだが、一番は朝起きたらもういなくて、山に入ってどんな仕事をしているのか知らない自分の子どもにカッチョイイ父の姿を見せたい一心なのだ。オレンジ色の林業コスチュームをフル装備し、チェーンソーを自在に操る彼らは子どもにとってはヒーローだ。

 

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イベントなどの活動の他に彼らは木に関する様々なものを創り出している。足寄町の「ふるさと納税」の返礼品となっているのがスウェーデントーチとも言われる「ウッドキャンドル」で高さ50センチ程の丸太にチェーンソーで切れ目を入れ作る。同じく「ウッドストーブ」は丸太の中心にドリルで縦穴を開け、下に横穴を開けて縦穴と繋ぎ、火を付けると煙突効果で燃えるという仕組みで、これで料理も出来る。その他には、道北の下川町での研修会から得た知識を基にアカエゾマツのオイル抽出に挑戦し、見事成功。足寄の農業生産法人「北十勝ファーム」がこれを使った地サイダー「足寄オンネトーブルー」を完成させている。瓶のふたを開けると、アカエゾマツの香りが広がり、まるでオンネトーの森を森林浴しているような気分にさせてくれる

サイダーだ。更にクリスマスシーズンにはツリーを切り出し、道の駅の前に設置。他にもチェーンソーを駆使して作った作品を並べ、道の駅を訪れる人々の目を楽しませている。

 

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そんな彼らの遊び心や情熱は徐々に周りに伝染し、6名で始まった岐志会は現在17名となっている。それを聞いた福田副会長「そんなにいるの?知らなかった。」 逆になぜ知らない?さて、とぼけたおじさんは置いておいて、岐志会はこれまで佐野を中心とした創立メンバーが中心となって活動を行ってきた。しかし昨年(2021年)、若いメンバーからうれしい提案があったという。その提案とは、「コロナ禍で公園に子どもを連れて行く事が多くなり

公園の木に危険なものがある事が気になる。岐志会で整備したらどうだろう?」というものだった。この提案を受けた佐野会長は彼らの申し出を「素晴らしい!」と絶賛し、役場との交渉など全てを若手に委ねた。果たして、岐志会は若手が中心となり、町内の3つの公園の樹木剪定や清掃を行い、子どもたちが伸び伸びと遊べるように整えた。この行動に対して町からも感謝状が贈呈されたが、佐野にとっては何よりも若手メンバーから声が上がった事が殊の外うれしかった。しかし!またしてもあの男が一言。「そんな事やったの?知らんかった。」彼は一体どんな事なら知っているのだろう? 佐野が一言「一応LINEで送ったけどね・・・。」と返すと、「ほんと?だはははは!」福田バカ笑い。佐野と佐々木は苦笑い。横で聞いててイタタマレナイ!あまりの空気に思わず韻を踏んでしまったではないか。

 

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福田副会長の名誉のために言っておくと、彼は岐志会最年長にも関わらず、皆から「こーちゃん、こーちゃん」と慕われるムードメーカーだ。皆が集まっていると、向こうからこーちゃんが歩いてくるだけで盛り上がる。はたしてこれが彼の名誉のためのエピソードなのかは分からないが、皆に愛されるこーちゃんは自身も現場でバリバリ働く、頼れる社長なのだ。そして佐野会長は元洋服屋の店長だけあってそのいで立ちはオシャレで、林業マンって

カッコイイ!と思わせてくれる。発想も豊かで行動力もあり、文字通り岐志会の顔だ。最後に佐々木は子どもの頃と同様、ニコニコニコニコして、足寄に帰ってきた幼馴染を助けてくれる。昔は、自分の後ろをちょこちょこと付いてきたものだが、今は彼の後ろを付いていくのに精一杯。その高い技術を生かしてチェーンソーアートやモノ作りの中心となって活躍する。そんな彼らの努力もあり、足寄の林業事業社には道内外から移住したり、足寄にUターンした若者が入社し、がんばっていると言う。

 

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3人から話しを聞いている内に、一度林業の現場に足を運んでみたいと思い、無理を言って連れて行ってもらった。四駆の車高の高いクルマじゃないと

絶対に無理な林道をクネクネと入り、クルマを停めてスノーシューに履き替え山を登る事10分。カラマツ林の中で若手林業マンがせっせと枝打ちをしていた。2人の若手の内、「鈴木勇一(すずきゆういち)」さんは、千葉から奥様と移住してきたという。なんでもコロナ禍で奥様が仕事を失い、それならばと自分もさっさと仕事を辞め、2人でキャンプしながら移住先を探し歩いたという強者だった。そうして縁あって辿り着いたのが足寄町。以前に

小笠原諸島で固有の植生を復活する事業の現場で働いていた事があり、自然の中で身体を動かすのが好きだからと林業を選んだのだそうだ。

仕事はどうですか?と尋ねると、「楽しいです!」と満面の笑顔が返ってきた。

 

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山の中ではそこで生きる動物の息遣いも感じ取れる。鹿の足跡、時には熊の足跡だってある。クマゲラの突いた跡は、木の低い部分を縦に突いていたり、深くは突かずに表面の皮をはがすように突いている跡もある。鈴木さんが「今朝、フクロウに会いました。」そう言った。それはすごいねぇなどと話しをしているとなんと山の奥の方から「ホー、ホー」と鳴き声がするではないか!4人でそーっと鳴き声のする方に向かうとそこには一羽のエゾフクロウが木に止まっていた。スマホではうまく写真が撮れないのは残念だが、素晴らしい体験だった。山での仕事の特権はこんな事もある。

 

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「あしょろ岐志会」の活動に参加したり付き合いをするうちに林業に大いに興味が湧いてきた。自分がそうなのだから若い林業マンが増えていくのも

うなずける話しだ。とここまで「林業=男の仕事」みたいな書き方をしてきたが、岐志会首脳3人によると昔は女性もたくさん山の仕事に就いていたそうだし、今も大歓迎だそうだ。実際のところ町内で林業に携わる女性は数える程というのが現状だが、ジェンダーフリーの今どき、「男の仕事だ。女の仕事だ。」などと言うのは時代遅れも甚だしい。足寄の林業にももっともっと女性が進出し、颯爽とチェーンソーを操って、大きな木を伐倒する姿を

想像するだけでなんて素敵なんだろう!

 

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佐野、佐々木、福田を含む「岐志会」メンバーや他の林業マンたちはこの冬も多くの木を伐倒した。彼らが倒した木は足寄の林業の先人たちが大切に

育んできた木々だ。そしてこの春、伐倒した山に彼らはまた苗木を植える。しかし彼らがその木を伐倒する事はないだろう。林業とはそんな風に輪のように繋がっているサステナブルな仕事だし、厳しくともロマンがあるそんな仕事だ。今日も彼らは朝早くから仕事の準備を整える。のこやチェーンソーと共に「山を支える志」も忘れずに積み込み、目指す山へとクルマを走らせる。

 

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足寄町役場 経済課商工観光振興室商工観光・エネルギー担当

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足寄物語

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