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足寄物語~Ashoro Stories その7「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」

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足寄町が知る人ぞ知る「化石の町」だという事をご存じだろうか?

「化石」と聞くと「恐竜」をイメージされる方がほとんどだと思うが、足寄の化石は足寄町内で発掘された「動物化石」となる。具体的には「束柱類(そくちゅうるい)」という今は絶滅してしまった海生哺乳類と原始的なクジラで、総称して「足寄動物化石群」と呼ばれている。聞き馴染みのない固有名詞が並び、既になんだか小難しくなってきているが、ここは避けては通れない。すこーし分かりづらい事もあろうかと思うが我慢して読んでいただきたい。と、言い訳からという奇抜なスタイルで始まった今回、まずは「分かりづらい」の1番手「束柱類(そくちゅうるい)」について簡単に説明したい。この「束柱類」とは3000万年前から1000万年前にかけ、日本やアメリカ西海岸などの北太平洋沿岸で生息していたと考えられている哺乳類で、どうやら海に依存して生活していたようだ。その代表が「デスモスチルス」で、北海道はもちろん日本国内は元より、サハリン、カムチャッカなどのロシアや北米などで多数の化石が発見されている。ところが足寄で見つかったのは、その「デスモスチルス」の祖先に当たるもので、名前を「アショロア・ラティコスタ」と言う。実はこの「アショロア」、束柱類としては世界最古の化石となり、足寄で初めて見つかり、未だこの1体しか発見されていない。だから名前に「アショロア」と町の名前が付いている。見つけたのは、北海道大学で地質学を研究していた「木村学(きむらがく)」という大学院生。1976年の夏、足寄の茂螺湾川で地質調査をしていた際に偶然見つけたらしい。余談だがこの木村学さんはその後、東京大学の教授となり日本の地質学の第一人者となっている。

そんな「アショロア・ラティコスタ」が収蔵され、復元骨格が展示されている場所こそ、今回紹介する「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」である。

 

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国道241号を上士幌方面から足寄に入ると市街地の手前に「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」はある。建物を囲む円形の外壁は地元の芽登石が粗く野積みされ、それをつたう植物は、夏は青々と茂り、秋にその葉を真っ赤に染める。「束柱類」の復元骨格のイラストが看板などいたるところに描かれ、なかなかいい。博物館を訪れると案内をしてくれたのは「安藤達郎(あんどうたつろう)」館長。

喋りくち、声のトーンともに極めて柔らかく、いかにも学者然としている。

子供の頃から「自然科学に興味があった。」という館長は、「科学者になりたかった。」とその頃の夢を語り、「宇宙の謎を解くとか大それた事を考えてましたね。」と笑った。その一方で彼は「生き物の進化」にも興味があり、結局大学進学の際「宇宙の謎」ではなく「生き物の進化の謎」を選んだ。

「最初に面白かったのは生き物の形が変わっちゃう事でしたよね。」彼は生き物が何十万年、何百万年という時間をかけ、進化と退化を繰り返し、その姿形を変えてきた事が自身のアンテナに引っかかったという。「化石を調べていると今ではいない生き物がいたという事が分かったり、時代順に並べていくとどんどん形が変わっていくのが分かり、変化を直接この目で見る事が出来るんです。」更に間髪入れずこう続けた。「例えば肩の骨が見つかるとその骨と違う時代の骨と比べてみる。するとどういった変化が起きたかが分かります。で、形の変化が分かると次に働きの変化が分かるんです。」口調はクールだが明らかに夢中でそう話す安藤館長の目は、少年のようにキラキラと輝いて見えた。

「好奇心が止まらない」というやつだ。

 

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デスモスチルスの復元骨格

 

「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」には世界にただ一つの「アショロア・ラティコスタ」の他に、それに次ぐ古い時代の「ベヘモトプス・カツイエイ」というこちらも足寄で発見された貴重な化石に加え、デスモスチルスなど合わせて9体の束柱類の復元骨格が展示されている。安藤館長曰く「この分野としては世界でも有数の博物館」との事だ。世界中から専門家がやってくるらしい。

そんな世界屈指の博物館には、それらの復元骨格と共に復元画も展示されている。束柱類の復元画を見ると、もちろん各々特徴は違うものの、概ね「カバ」のような「トド」のような「マナティ」のような、そんな風貌である。それにしても、1000万年前という遥か彼方に絶滅した動物の骨格を復元できたり、ましてやその姿かたちを復元画として描けるのはどうしてだろう? そもそも恐竜だってそうだ。誰も本物を見た事などない。これは好奇心が止まらなくなってきた。

 

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アショロア・ラティコスタの復元骨格と復元画

 

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ベヘモトプス・カツイエイの復元骨格

 

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安藤館長に止まらなくなった好奇心をぶつけると、3つのポイントを教えてくれた。「根拠」「動物の知識」そして「想像力」。この3つが復元には必要とされるそうだ。「束柱類」のように大昔に絶滅し、ヒントの少ない生き物の復元は困難を極め、世界中の研究者が頭を悩ませているし、研究が進む事によって作られる復元骨格も変化していくという。ティラノサウルスを例に挙げると当初は「ゴジラ」のように垂直に立っていると考えられていたが、現在は前かがみで身体は水平になり尻尾はバランスを取るため浮いている。更に今では羽毛が生えていたという事も分かってきたようだ。

「アショロア」の復元骨格も、当初は4本の足で「陸上に立っている」そんなイメージで復元されたが、2013年に海の中で生活していた事が裏付けられると現在展示されている「水の中を潜っていく」そんなイメージの新しい復元骨格が作られた。やはりこうして動きがあるようなものだと見るものの想像力を掻き立てる。そして見る人が、「どんな動物だったのか?」とイメージしやすいものとして大切なのが復元画だ。実は「足寄動物化石博物館」にはこの復元画のスペシャリストがいる。学芸員の「新村龍也(しんむらたつや)」。彼は3Dのコンピューターグラフィックを駆使し、「アショロア」や「ベヘモトプス」を始め、博物館の復元画を一手に引き受けている。聞くところによるとそもそも学芸員で復元画を手掛ける人はほぼいないそうで、ましてや3Dで描く人は皆無に近く、新村はその道の第一人者となる。幼い頃、「ウルトラマン」に登場する「怪獣」が大好きだったという新村は、それが高じて「恐竜」に興味を持ち、最後は「化石」に辿り着いた。小学4年の七夕では短冊に「考古学者になりたい。」と書いたという。その願いは織姫に届き、新村は化石の世界の研究者となったが、働き始めた博物館で、展示の化石がどんな生き物だったのか、これを口頭だけで説明する事に限界を感じ、自身で復元画を描くようになる。そうなると元々「怪獣」から「化石」へと辿り着いた男だ、新村の好奇心は加速し、「科学的な復元とは一体どのようなものだろうか?」「どうすれば復元画を誰もが正しいと思えるものにできるのか?」と突き詰め、遂には復元画が専門となってしまった。

 

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ベヘモトプス・カツイエイの復元骨格と復元画

 

3Dを使って復元される新村の画は骨格に筋肉をつけ、その上に皮を乗せてというように動物の身体の法則に基づいて順に描かれていく。なので動物の身体の仕組みや法則の知識が求められる。

例えば「束柱類」なら、海の中で生活していたと分かっているので身体は水の抵抗を受けないよう「くびれ」がないように、そして脂肪で覆う。関節の動く方向は法則として大体決まっているからその動きに合わせて皮膚に「しわ」を作っていく。色は完全に想像だが動物は環境によって保護色になる事が分かっているので、これもそれに基づいて決めるのだそう。新村はそんな作業を、復元画を依頼してきた動物研究者と「あーでもない、こーでもない」とやり取りしながら進めるそうだが、彼にとってそれは「楽しい作業」だと言う。そして最後にこう話してくれた。「同じ動物の復元画で一見同じように見えても根拠に基づいて描かれたものもあれば、単にイメージだけで描かれたものある。だから1枚を完成させるその『過程』を感じとってほしい。」新村は研究から得た根拠と動物の知識を基に「想像力」と「創造力」で1枚の復元画を仕上げていく。

 

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学芸員の日々の研究の成果と努力で作られた復元骨格と復元画。「足寄動物化石博物館」でしか見る事ができないのでお越しいただきたいが、束柱類の他にも足寄で見つかった原始的な「クジラ」の化石もあるし、天井から吊るされたクジラの全身骨格はまるで空飛ぶクジラ!迫力満点だ。また安藤館長が専門として研究している「ペンギンモドキ」なんてのもいたりバラエティも豊か。是非、順を追ってご覧になってほしい。そして「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」に来たら欠かせないのが「体験メニュー」。これは研究者が実際に行っている作業の疑似体験が出来るという事で、子供から大人まで大人気だそう。メニューは3つあり、1つ目は「化石のレプリカづくり」、2つ目は「古生物模型づくり」、そして一番人気は、石を削ると本物が出てくる「ミニ発掘」だ。「化石」と「クリスタル」があり、何が見つかるかは分からないというが、それはそれで本物の発掘のようだ。館長に勧められ自分も発掘に挑戦させていただいた。「クリスタル」を選び、3つの道具を使いながら石を削っていくと、ものの5分で中からなにやら鉱物が現れた。これは楽しいぞ!中から出てきたのは「黄鉄鉱(おうてっこう)」というものだった。館長曰く「本物の化石やクリスタルが出てくるので皆さん喜んでくれます。」お父さん、お母さんもお子さんと一緒になって夢中で発掘するそうだ。実は自分が席を置く足寄町役場商工観光振興室のMさんも、5歳と3歳のお子さん2人を連れてよく博物館を訪れるという。なにしろここ、足寄町民なら無料で入館できるのだ。小さな2人は毎回「クリスタル」のミニ発掘を楽しみにし、自分が発掘したコレクションを宝物にしているそうだ。町にこんな博物館があると、幼い頃から「化石」などに親しめるので足寄の子供たちは幸せだ。もちろん足寄以外に住む方にもどんどん来てもらって本物を見たり、発掘したりしてほしい。そうしたらキミの好奇心は止まらなくなるぞ。

 

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館長を始め、学芸員さんに色々な話しを伺いながら博物館を歩き回ると新しい疑問や楽しみが出てきて何度でも行ってみたくなる。初めて来館する際には是非解説してもらう事をおすすめする。

個人的には復元骨格のイラストが気に入ってしまった。これは「ベヘモトプス」だそうだ。

博物館のグッズにも使われているので勧めたいし、イラストがどこに使われているか探してみるのも地味に楽しい。さて実は次の写真の中に1つだけ「アショロア」の復元骨格のイラストが使われているそう。さあどれだろう?新企画「アショロア・イラストコスタを探せ!」・・・。

安藤館長にやさしく却下されそうだ。

 

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「足寄動物化石博物館 フォストリーあしょろ」  http://www.museum.ashoro.hokkaido.jp/

足寄町郊南1丁目  (0156) 25-9100 

 

開館時間 午前9時30分~午後4時30分 毎週火曜日休館

入場料  一般 400円(町民研修 無料)

     小・中・高・満65歳以上 200円(幼児、町内の小・中学生無料)

     団体料金あり

体験料  ミニ発掘 200円、レプリカづくり 200円(色ぬり100円)、古生物模型づくり 200円

     (コロナ感染拡大防止のため当面ミニ発掘のみ体験可、他は販売しています。)

 

※ 各料金は2021年現在の料金です。

※ 冬休み企画「ミニ発掘 プレミアム」「冬の博物館 アクセサリーづくり」を開催予定!(2021年現在)

※ 令和3年(2021年)11月30日(火)まで「巡って集めよう!ほっかいどう恐竜・化石カード!!」が行われています。

  詳しくはこちらをご覧ください。

このページの情報に関するお問い合わせ

足寄町役場 経済課商工観光振興室商工観光・エネルギー担当

電話番号
0156-28-3863(直通)

足寄物語

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