道の駅「あしょろ銀河ホール21」からオンネトー方面へ向い5分程ドライブすると、右手に「足寄ぬくもり農園」という看板が立っている。奥にはビニールハウスがずらり15棟。そのハウスの中で栽培されているものこそが足寄町の新たな特産品となるべく力を入れる「イチゴ」である。
「足寄ぬくもり農園」は、「JAあしょろ」の出資型の合同会社で現在1年を通してイチゴ栽培に取り組んでいる。イチゴは冬から春を主戦場とする「冬イチゴ」と夏から秋にかけての「夏秋(かしゅう)イチゴ」の2つに大別されるが、本州では「冬イチゴ」の栽培が盛んで高級イチゴの「あまおう」などがその代表となる。何故本州では「冬イチゴ」の栽培が多いのか?それはイチゴ栽培には高温が大敵だから。
本州の暑い夏はイチゴの栽培には向かないのだ。
一方「夏秋イチゴ」は夏から秋にかけて収穫が可能だがやはりあまり暑い気候では具合が悪い。なので北海道など夏でも冷涼な気候の土地での栽培に向いている。ちなみに北海道で「イチゴ狩り」は夏にやるものと相場は決まっているが本州では冬にやるものだそうだ。
「足寄ぬくもり農園」がメインで栽培している「夏秋イチゴ」は「信大BS8-9」という品種。
信州大学工学部の「大井美知男(おおいみちお)」特任教授が改良を手掛け2011年に品種登録されたイチゴで、味はもちろん見た目も良く、切ると中まで赤いのも魅力的だ。
信大のスペシャルサイト「信大独創図鑑」によると大井教授が特にこだわったのが「四季を通じて〝旬〟の味がするイチゴを作る」ということ。そんなこだわりを実現するためおよそ6000通りの組み合わせを試し、ようやく目標にかなったのが「信大BS8-9」だった。
しかしどうしてそのイチゴを足寄で栽培するに至ったのか?辿ってみると九州大学北海道演習林のある足寄に、九大の教授が懇意にする大井教授を連れて来た事が始まりだった。
大井教授は足寄の昼夜の寒暖差、「十勝晴れ」とも称される晴れが多い管内の日射量などの諸条件を鑑み、自分が開発した「信大BS8-9」が十分に栽培可能だと太鼓判を押し栽培を薦めてくれた。
こうして2013年から試験栽培を開始し、2016年に農園を設立。現在「足寄ぬくもり農園」ではこの「信大BS8-9」をメインに冬イチゴの「紅ほっぺ」「よつぼし」の赤いイチゴと「天使のいちご」という白いイチゴを通年で栽培。北海道では一番の栽培規模を誇ると思われる白いイチゴは農園全体の25~30%となっている。
さてここで少しの疑問はなかろうか。夏秋イチゴをどうやって通年栽培するのだろう?冬はどうする?
私たちの先輩、町の英雄である松山千春さんも「♪さむいねぇ。さむいねぇ。こんな夜はぁ」と歌ったくらい足寄の冬は寒い。そんな冬にいくらハウス栽培と言えどもイチゴを育てる事など出来るのだろうか?結論から言えば「出来ない!」はずなのだが不可能を可能にしたのが「温泉」だった。
実は農園がある場所は元々花き農家が花を栽培していたそうでその時に町が畑の隅に温泉を掘り、通年で花を育てられる設備を整えていた。「足寄ぬくもり農園」はこの温泉設備を利用する事でイチゴの通年栽培を可能にしたのだった。
現在「足寄ぬくもり農園」を管理・運営しているのは「JAあしょろ」から出向する「佐々木俊次(ささきしゅんじ)」。足寄町の出身で中学まで地元で過ごしスピードスケート選手として高校は町外の強豪校へ進学。大学もスケート競技で道外へ出た。スポーツマンらしくはきはきと淀みなく言葉を伝える彼には「好感」しか感じない。
大学を卒業し、同じ十勝の「JAうらほろ」に就職した佐々木だったが、叔父である「ぬくもり農園」の前代表に乞われ、故郷へと戻ってイチゴ栽培に加わったのが2019年の2月から。
JAで働いていたとは言え農園の仕事は完全にハードな生産者の仕事、抵抗はなかったのだろうか?
「元々祖父母が上足寄で農家をやっていたり、浦幌農協では一番最初に農産部に配属され農業は身近でした。結婚後は嫁さんの実家が農家だったので手伝ったりして農作業は楽しかったんです。だから農業の現場に携わりたかった。」そして実際に携わった今は「手間暇かければイチゴの収穫量だったり、品質だったりで努力が全部自分に返ってくる。性に合ってます。」と話し、農園に来て2年半ではあるが、「この仕事が面白くないと思った事は一度もない。」ときっぱりと言った。そんな佐々木にイチゴ栽培の難しさを聞いてみた。「苦労するのはハウスの温度管理ですね。気温が高い時はハウスを開けて外気を入れたり、日陰を作ったりという作業をこまめにやらなければいけない。時期的に難しいのは昼夜の寒暖差が大きい春先と秋口ですね。」との事。では人がいなくなる夜はどうするのだろう?
「夜も何かトラブルがあれば農園に駆けつけて作業しますよ。」と佐々木は何事もないように語った。
「ぬくもり農園」では温度調整などに不具合が生じた場合アラームで知らせる仕組みになっており、鳴った場合は夜中でも飛び起きて農園に向かうという。おいしいイチゴを実らせるためのその想いと努力は生産者としての「情熱」以外のなにものでもないと感じた。
そんな佐々木の「情熱」はこれから先をこう見据える。「足寄の新しい目玉にしたいんです。例えばイチゴ狩りをできるようにして足寄に人が来るような仕組みを作り少しでも町が活性化するのに貢献したい。」更に「ここは温泉が出てるのだから温泉施設を作ってもいいじゃないですか。イチゴ狩りをして温泉に入って帰ってもらう。楽しいですよね?」あぁ楽しいに決まってるさ!
「足寄ぬくもり農園」で栽培されたイチゴは「JAあしょろ」から「スウィーティーアマン」というブランドイチゴとして販売されている。白イチゴは「スウィーティーアマン・ピュアホワイト」。
足寄町内では「Aコープあしょろ」と道の駅にある「JAあしょろ」の直売場「寄って美菜」で販売され、その他は主に十勝管内のスーパー「ダイイチ」や「コープさっぽろ」、またイオン系列では十勝以外にも釧路、北見、厚岸、根室、函館で取り扱いがある。
また贈答用の化粧箱入りは、「とかち帯広卸売市場」のオンラインショップ。同じく帯広の「ディステリア京屋」の「旬選 贈り屋」というオンラインショップで購入可能。
生イチゴ以外では、いちごジャムが赤と白の2種類。またストロベリージェラートは6種類の味があり、「Aコープあしょろ」「寄って美菜」などで販売されているほか、町の「ふるさと納税」の返礼品にもなっているので是非足寄町の公式サイトから「ふるさと納税」にご協力いただき足寄のおいしいイチゴのジャムやジェラートを味わってみていただきたい。
さて「足寄ぬくもり農園」では佐々木以下総勢15名ほどのスタッフが働いている。
農園の1日は朝4時半に3名のパートの男性スタッフが出勤し、9時から10時頃までイチゴを収穫。その間、7時45分に他のスタッフも農園に出て、パートさん3名が収穫されたイチゴの選果作業を。
ハウス内では苗の手入れ作業などを2名のパートさんと地域おこし協力隊で参加する「山田活子(やまだかつこ)」さんと「池守咲季(いけもりさき)」さんの計4名が行い、活子さんのご主人で同じく地域おこし協力隊の「山田哲哉(やまだてつや)」さんがハウスのメンテナンスや防虫作業などを担当する。
そんなスタッフたちを佐々木と共に同じく「JAあしょろ」から出向する「小松遥香(こまつはるか)」さんがまとめあげ農園を切り盛りしている。
彼ら彼女らの「情熱」は佐々木のそれに負けてはいないだろう。
「足寄ぬくもり農園」のイチゴは「温泉熱」とスタッフの「情熱」で「真っ赤に」そして「真っ白に」おいしく熟すのだ。
Aコープあしょろ 足寄町南3条1丁目10番地 0156-25-4321
JA直売所「寄って美菜」 足寄町北1条1丁目3-1(道の駅「あしょろ銀河ホール21」横)0156-28-0303