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足寄物語~Ashoro Stories その6「オンネトー国設野営場」

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今、日本は空前のキャンプブームである。日本オートキャンプ協会が発表した「オートキャンプ白書2019」によると2019年に1泊以上のオートキャンプに参加した人は860万人に上り、7年連続で過去最高となったそうだ。これはオートキャンプだけの数字だから通常のキャンプを含むと数字は倍以上に跳ね上がるのだろう。それに伴いキャンパーを迎え入れるキャンプ場は至れり尽くせりの設備が整えられている。その一方で一人静かにキャンプを楽しみたいと「ソロキャンプ」の人気も高まった。このソロキャンプを実践する人は概ねキャンプ上級者でアウトドア慣れし、整えられた設備を持つキャンプ場よりも逆にそうではないキャンプ地を好むようである。そんなキャンパーに人気なのが「阿寒摩周国立公園」の中にある「オンネトー国設野営場」だ。「キャンプ場」ではなく、「野営場」という無骨な名前から何も整っていなさそうな気配を感じるが、その気配はほぼ当たりだ。林の中のキャンプサイトは区分けされておらず平らでもない。だからキャンパーはここに着いたらまずはテントの設営場所を吟味する。

この作業もここの醍醐味の一つだろう。地面は綺麗に刈り込まれた芝生などではなく土だ。と言っても秋には落ち葉が絨毯のように敷き詰められフカフカで快適な寝心地を約束してくれる。林の間から見えるオンネトーの湖面に目をやり、森を駆け抜ける風、近くを流れる沢、木々を飛び交う鳥たち、森の奥から聞こえる独特の甲高い鹿の声、そんな自然の音をBGMにゆったりと寛げ、夜になれば焚火の炎と音を愛で、空を見上げれば満天の星が降り注ぐ、そんなキャンプ場が「オンネトー国設野営場」なのである。

 

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さて先程「何も整っていないような気配はほぼ正解」と言ったが、もちろん全く整っていないはずはない。整っていないといけないものはきちんと整っているのが「オンネトー国設野営場」である。

元々は昭和41年に足寄営林署が給水施設や炊事用の炉、テーブルなどを整備し、町がトイレを設置。

更に平成9年にはトイレを併設した管理棟が整備されている。場内には程よく灯りが配置され夜も真っ暗になる事はなく、かと言って睡眠を邪魔する程の光量はない。まさに丁度良い塩梅の快適さを保っている。ただし!ただしである。ここには今時ないものが一つだけある。それは携帯電話やスマートフォンの「電波」。そうここではそれらの類いは無用の長物。外部との連絡は管理棟に備え付けられているピンクの公衆電話を利用する。なので今時の若者にはここでキャンプする前にダイヤル電話の使い方を予習しておく事をお薦めするし、10円玉を少し多めに準備しておく事をアドバイスする。「大丈夫!行ってからスマホで調べるから!」調べられるものなら公衆電話など置いていないのである。

どうしても携帯電話を使いたいのならば雌阿寒岳の1合目まで登ると繋がるとか、繋がらないとか・・・!?。しかしその電波がないのがまた「いい」という強者キャンパーもいて不便さを逆に楽しんでいただいているようだ。

 

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大阪の箕面市に本社を置き北欧を中心としたアウトドア用品を輸入販売する「株式会社アンプラージュインターナショナル」(以下UPI)の代表「本間光彦(ほんまみつひこ)」がここ「オンネトー国設野営場」で「モーラナイフ・アドベンチャー in Japan」を開催したのが2018年7月。日本国内はもとより、タイや台湾などアジア各地から参加者が集い、スウェーデンのナイフブランド「モーラナイフ」のアンバサダーと共にキャンプをしながらスキルを学ぶというスクール型のアドベンチャートラベル・イベントだ。好評を博したこのイベント、翌2019年も「オンネトー国設野営場」で2回目を開催している。

そして本間のUPIのアドバイザーも務めるアウトドアライフアドバイザーの「寒川 一(さんがわはじめ)」ももちろんこの「モーラナイフ・アドベンチャー in Japan」にスタッフとして参加していた。寒川はテレビ・ラジオ・雑誌などへの出演はもちろん、アウトドア関連の著書も多く、自身が暮らす鎌倉では「焚火カフェ」なども主宰する自他ともに認めるアウトドアの達人である。

そんな二人は口を揃えて「手つかずの自然が素晴らしい!」と「オンネトー国設野営場」を絶賛する。翻って地元に暮らす我々はどれだけこの「オンネトー国設野営場」の素晴らしさを理解しているだろう?

ここはオンネトーを「素晴らしい!」と讃えてくれるアウトドアのプロフェッショナルの二人からそのスキルを学び、彼らが発する言葉を聞き、外遊びを通じてオンネトーの良さを体感しようではないか。

そんな趣旨で2021年10月の初め「雌阿寒オンネトーレクリエーションの森協議会」の主催で「UPI スタディトレッキング® in オンネトー国設野営場」が行われた。

 

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2日間に分かれ行われたこのワークショップ。参加したのは「阿寒摩周国立公園」を所管する「環境省」、国有林などの管理を担当する「森林管理署」の職員に、「あしょろ観光協会」の理事やスタッフ。更にはお隣阿寒湖のネイチャーセンターのスタッフ、そして足寄町役場の職員などオンネトーに関わりのある人々およそ20名。メインで体験したのはワークショップのタイトルにもなっている「スタディトレッキング®」だ。寒川が提唱し、UPIの登録商標にもなっているこの「スタディトレッキング®」は通常、UPI鎌倉で開催され、自然の中を歩きながら燃料を集め、湧き水を採取し、それを浄水し、火を起こしてお湯を沸かし、米を炊き、食べ、コーヒーを淹れて終了。極簡単に言えばこんな流れだがこれを1日かけて体験する。寒川はアウトドアのスキルを災害時に役立ててほしいと考え、飲める水の確保や火の起こし方、限られた水量での炊飯などの技術を丁寧に伝えてくれる。なんと先程説明した行程をペットボトル1本500ml程度の水で賄うそうだ。

今回オンネトーでのワークショップはこれのショートバージョンで行われたのだが、スタートに当たって参加者にはオレンジ色のバッグが配られた。パッと見、街中で若い子が背負うオシャレなリュックのようだが、その中身は一味違う。小枝などの燃料で短い時間でお湯が沸かせる「ケリーケトル」。雨水や川の水を飲み水にできる「ソーヤー」の浄水器。「モーラナイフ」の製品の中でも全長が15センチに満たないコンパクトなナイフ「エルドリス」。メタルマッチもついているのでこれで火も起こせる。そしてお弁当箱のような北欧らしいかわいいデザインの「ウィルドゥ」の食器など、UPIが取り扱うアウトドアブランドの製品がセットになって入っていた。このセットがあればキャンプはもちろんの事、災害時にも十分に役に立つのだ。UPIではこのセットをライフラインサポートパックと名付け提供している。

参加者はこのライフラインサポートパックを背中にヒョイと背負い水を汲みに歩き出した。

こうして「UPI スタディトレッキング® in オンネトー国設野営場」がスタートした。

 

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水を採取した参加者に寒川はこう言った「歩いたり自分の身体を使って燃料や水を得るという事は『摂理』だと思うんですよ。」オンネトーの森でこんな言葉を聞くと汗もかかずに便利さに胡坐をかいてきた己に幻滅する。自分が幻滅と反省を行き来する間に参加者は「ソーヤー」を使って浄水。と言っても汲んだ水をこの製品にくぐらせるだけだ。寒川は「アウトドアと言っても大切なのは安全性が保たれている事。」「だから完成している安全な製品があるならそれを使った方がいい。」と話し、この「ソーヤー」が38万リットルもの水を浄水できるものだと教えてくれた。1日に10リットル浄水したとして100年以上使える優れモノだ。その「ソーヤー」を使い目に見えないゴミなどを取り除いた後はこの水を煮沸して飲めるようにするため火を起こす。自然の中では落ちている細い小枝や北海道で言ういわゆる「ガンビ=白樺の皮」や針葉樹の葉、松ぼっくりなどを組み合わせたものが焚き付け「火口(ほぐち)」として適しているという。しかし雨でそれらが湿っていたり、災害時に役に立つのが「牛乳パック」だと寒川は教えてくれた。開いて乾かした牛乳パックが2~3枚あれば燃料として十分に役に立つのだそうだ。

そう言うと寒川は牛乳パックを利用し、モーラナイフの背でメタルマッチを「ジャッ!」と擦りその火花で火を起こすと、煙突効果のある特殊な構造のケリーケトルで5分もしない内にお湯を沸かして見せた。

続いて参加者も悪戦苦闘しながら同じ手順を踏む。まもなく野営場の森に沸騰を知らせる「ピーッ」というホイッスル音が次々に鳴り響いた。

 

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寒川が毎月鎌倉で行う「スタディトレッキング®」では少ない水で米を炊きドライカレーなどを食べるそうだが朝から歩き回った参加者達は温かいランチを満足そうに頬張るのだとか。

オンネトーのこの日はさして歩き回ってはいないもののランチは豪華だった。調理を担当するのは「UPIアドバイザー」で「北欧ソト料理家」の「寒川せつこ」。

そう寒川の奥様だ。スカンジナビアの伝統的な料理に精通し、テレビなどでも活躍するせつこさんだが彼女がこの日、スウェーデンのアウトドアブランド「ダーラム」の鉄板を使って振舞ってくれたのはスウェーデンの料理3品。これを足寄で獲れた材料を使って振舞ってくれた。

1品目は「ソーバス」。この料理はラップランド地方ではトナカイの肉を使用するそうだが、オンネトーにトナカイはいない。じゃあ!エゾシカだ!!と盛り上がったものの国立公園内での狩猟はできない・・・。まあそれは冗談として狩猟期間がスタートしたばかりでシカ肉が手に入らなかったため今回は牛肉を使った。これを玉ねぎやマッシュルームと共に炒め、牛乳などで煮込むのだが、使ったのは足寄の「ありがとう牧場」の放牧牛乳。更にベリー類が入り、食べる時にはジャムが添えられた。一瞬「ベリー?ジャム?」と思ったのだが、いやいやそれらの酸味や甘味が味のアクセントとなった。

この「ソーバス」を、参加者が沸かしたお湯で茹で上げたパスタにかけていただくという趣向だ。

2品目はジャガイモを使ったスウェーデンの家庭料理「ピッティパンナ」。こちらはそれぞれのお家の味があるそうで、せつこさん曰く「日本で言えば肉ジャガ的なポジションかな。」スウェーデンのママの味だ。この日は足寄産の「インカのめざめ」と「レッドムーン」という2種類のジャガイモを使い、玉ねぎ、パプリカなどと共に賽の目に切って炒め、「足寄チーズ工房」のクリームチーズとともにいただいたが、そのカラフルな見た目が一層食欲をそそった。そして最後はデザート。「ジーノ」というスウェーデンでは、ママが子供と一緒につくる初めてのデザートと言われる簡単なフルーツデザートだった。スタンダードはバナナ、キウイ、イチゴをバターで炒め、最後にホワイトチョコレートを削りかけいただく温かいデザートだが、例えばご当地ものや、旬のもの、また色々なベリーを使ってみるなど様々なアレンジが効く。今回は、「足寄ぬくもり農園」のイチゴや旬のリンゴ、そしてバナナを使い、目にも鮮やかなオシャレーな一品をつくってくれた。

足寄の生産者が丹精込め作った素材をせつこさんが焚火を使い丁寧に拵えた料理はそのどれもが滋味溢れ、参加者は口々に「おいしい」「おいしい」とアッという間に平らげてしまった。

 

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ランチの後は寒川が煮出しコーヒーを淹れてくれた。やかんで湯を沸かしそこに粗挽きのコーヒー豆を目分量でドバッと投入、少し時間を置くと、最後は豆を沈殿させるためと寒川はおもむろにやかんを振り回した。なんとワイルドだろう!このコーヒーが殊の外うまかった。

午後からはハンモックの張り方を教わり、「スタディトレッキング® in オンネトー国設野営場」は1日を終えた。ハンモックを張っている時、寒川が印象深い事を言った。「アウトドアは自己責任です。」

寒川は他人が張ったハンモックにチェックなしでは絶対に身体を預けないそうだ。もしノーチェックで身体を預け、ケガをしたとしてもそれは「自己責任」だと言う。この言葉を聞いて思った事がある。

「アウトドア」とは突き詰めれば「生きていく」という事ではないのだろうか。だから「生きていく」という事は「自己責任」なのだろうと。まさかオンネトーの森で一人哲学にふけるとは思っていなかったがストンと腑に落ち大人の階段を一段上ったような気になった。アウトドアは少年を大人にし、初老をほんのひととき哲学者にしてくれる。

 

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「心が落ち着き、穏やかになる場所ですよね。ここは。」活舌の良い通る声で寒川がそう言った。

「この環境をどうキープしていくのか?前の人が壊さずに我々に渡してくれたのであれば、我々も次の人たちにそのまま渡していく事が大事なんじゃないかなぁ。来年来ても10年後に来ても『あぁやっぱりオンネトーだね』って帰れる故郷みたいになっててほしいなぁって勝手な話しなんですけどね。アッハッハッハ!」彼はそう言って笑ったあと「だけど人が安全にここにいられるような最低限の設備はあった方がいいと思います。けっして快適なサービスではなくて。そういうのはよそにいっぱいあるんですよ。」寒川は訪れる人の安全は担保されなければいけないと言う。

ここ「オンネトー国設野営場」には、2022年6月から新しい休憩舎がオープンの予定だ。休憩舎周辺には念願のWi-Fiが通じ、突然の事故などの対応がしやすくなる見込みだ。

この新しい施設に対し、事業者の目から本間はこう話してくれた。

「Wi-Fiが通ればワーケーション施設としても使えるし、色々なイベントもやりやすくなりますよね。」

「例えば今回使った『ライフラインサポートパック』などをレンタルしてここで使ってもらうとか、またワークショップを開催したりするのもいいんじゃないでしょうか。この素晴らしい場所をUPIの顧客への特別サービスの一環として今後も使わせてもらいたい。」とありがたい言葉をいただいた。

2人が口を揃え絶賛する「手つかずの自然」がオンネトーにはあって、野営場ではそれを長い時間ゆっくりと味わうことができる。なにも大荷物を車に満載したキャンプでなくていい。バックパックにポットとナイフとコーヒー道具、そして「自己責任」を放り込んでフラッとやってくれば素晴らしく豊かな時間が過ごせるのだから。

 

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「オンネトー国設野営場」 北海道足寄郡足寄町茂足寄国有林内

営業期間 6月~10月(詳細な期間は「あしょろ観光協会」のサイトで確認)

利用料金 宿泊 大人350円 小・中学生 200円、日帰り 大人80円 小・中学生 50円

※利用料金は令和3年度の料金です。

※「スタディトレッキング®」はUPIの登録商標です。

 

「株式会社アンプラージュインターナショナル=UPI」

 https://upioutdoor.com/

 

「寒川 一」                

 https://upioutdoor.com/story/friend/hajime-sangawa/

 

「寒川 せつこ」

https://upioutdoor.com/story/friend/%e5%af%92%e5%b7%9d%e3%81%9b%e3%81%a4%e3%81%93/

 

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足寄町役場 経済課商工観光振興室商工観光・エネルギー担当

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