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足寄物語~Ashoro Stories その29 「珈琲座間屋」

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現在の「道の駅あしょろ銀河ホール21」の建つ場所は、自分が子供時代は国鉄の駅舎があった場所だ。昔の駅舎は木造で、駅の前はロータリーとなっており、十勝バスや拓殖バスの営業所も並んでいた。駅の待合所はストーブを中心にイスが並び、乗客は売店でお菓子やジュースを買い込むと、汽車の時間まで思い思いに過ごす。

列車の発車時刻が近づくと改札が始まり、駅員さんが切符を切るカチッカチッという音が軽快に刻まれたものだ。

駅の並び、現在の北側駐車場の場所には、駅員さん達の官舎があり、木造平屋の長屋が軒を連ねていた。今その場所には昔の駅を模したレプリカの駅舎が建っている。十勝バスの待合所を兼ねたその駅には20228月に美味しい自家焙煎のコーヒーをいただけるカフェ「珈琲座間屋(こーひーざまや)」がオープン。コーヒー豆の焙煎が始まると、道の駅周辺は香ばしいコーヒーの香りに包まれている。

 

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「珈琲座間屋」を経営するのは、2021年に札幌から足寄に移住した「座間宏太(ざま こうた)」「ゆかり」夫妻。ご主人がコーヒーの焙煎を担当し、奥様がお店全般を取り仕切っている。

ご主人は、新聞販売所の店長も務め、新聞配達業務などと兼業しながら、コーヒーを焙煎する。このご主人「座間宏太」は、一般的に言う「無口な人」になるだろう。およそ人と関わるのが不得手な印象があり、話しをしても、ぼそぼそっと「そーですねぇぇ。・・・。」とこんな調子だ。しかし、そんな内気に慣れてくると、なかなかイジリ甲斐があり、味のある人物に思えてくる。それは決して彼が、人と関わらないように生きているからではないからだ。イベントなどがあれば、忙しい新聞業務の合間を縫って、必ず手伝いに駆けつけてくれるし、挨拶をすればニッコリ笑顔で返してくれる。ちょっとイジるとすぐにキョドるのも味わい深く、奥様がいないと

ダメそうな感じがまたいい。褒めているのかけなしているのかわからなくなってきたが、言いたい事は「イイ人だ。」という事だ。

 

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一方、奥様の「ゆかり」さんは、いわゆる「しっかり者」と言って良いだろう。お店では、着物姿で凛とした姿を見せる。「個性的な人ばっかです。」と彼女は常連客をそう表現するが、その兵どもを前に一歩も引いてはいない。売りのコーヒーはもちろんだが、フードメニューやスイーツメニューもなかなかのもので、聞けば座間屋をオープンする前まで、本格的に料理などはやった事がないと言う。「やれば出来るもんですね。」そう言って彼女はニヤリとした。

そしてご主人同様、奥様もまた商工会女性部やイベントなどにも積極的に顔を出し、町の人々との交流を大切にし、その人柄が座間屋の繁盛に繋がっている。

言いたい事は、やっぱり「イイ人だ。」という事だ。

 

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それでは「イイ人夫妻」のプロフィールをご紹介しよう。

ご主人は、1979年函館で生まれた。函館は本当に生まれただけで、製薬会社で薬の研究をしていた父の転勤などでアメリカや本州を転々として育つ。

ちなみに高校の時は滋賀に住み、京都の学校まで通っていたそうだ。大学進学に際し、北海道大学進学を選んだことで、「生まれただけ」だった道産子は初めて北海道に住む事になった。しかも水産学部だったから、後半の2年半は奇しくも生まれ故郷の函館で過ごした。北大では修士号を取り、その後九州大学で博士号を取得。

九大の研究員を経て、北大で任期付きの研究員となる。任期終了後は本州に戻る選択肢もあったが、道内での就職を選び、薬の治験データを取る会社に就職した。

そんな彼がコーヒーの焙煎をするきっかけとなったのは、「最初は飲んでただけなんですけど、コーヒーってちゃんとしたやつを買うと高いじゃないですか。

それなら自分でやった方がいいんじゃないかって笑」 まさかの経済的理由だった。

しかし、そこは大学で研究員までやった男。アッと言う間に焙煎の奥深さに魅せられ、研究さながらにコーヒー焙煎にのめり込んでいった。

足寄に来る3年程前の事だ。この時はまだ聞いた事も、行った事もない足寄という町でコーヒー屋をやるとは夢にも思ってはいなかった。

 

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一方、奥様の「ゆかり」さんは、1978年札幌生まれ。幼い頃に父の転勤で函館に住んだ以外は、高校を卒業するまで札幌で育った。

そんな彼女、理由は定かではないが、中学時代に「私は陶芸家になる!」とそう誓った。そしてその旨を両親の前でも宣言する。「私、陶芸家になる!」と。

その宣言に対し、父はこう言った。「いやちょっと待て!」「陶芸家は、結婚した後でも出来るから、今はまだやめとけ。」しかし、彼女の頭の中は、「田舎に住んで、土をこねて焼き物を焼いて、たまーに都会に出て焼き物売って暮らすんだ!」そんな妄想が膨らみに膨らんでいたから、諦められるはずがない。

百歩譲って、「じゃあ美術大学に行きたい。」と返事をすると、今度は「美術じゃ食っていけない!」と、折衷案も跳ねのけられた。

 

そうこうしている内に高校生となり、真剣に進路を決める段になったが、「どうしようかなって笑」結果、彼女が選んだ大学は、室蘭工業大学。

実はバリバリの「リケジョ」だった。「国語が苦手だったんですよ。答えが分からなくて。その点数学は答えが一つに決まるからその方が分かりやすかった。あと理科の実験も好きだったんですよね。」 大学では「化学」を勉強した。

余談だが、自分も足寄高校時代「化学」を選択していた事がある。覚えているのは、化学の先生が「高橋先生」という変わり者の先生でスーパーカブに乗って通勤していたなぁという事くらいである。高橋先生は、テストの最後に「このテストの感想を書け」という設問を作ってくれ、何でもいいから感想を書くと30点くれた。

イイ先生だった・・・。

 

さてそんな「リケジョ」の「ゆかり」さんだったが、「陶芸家になる夢は諦めてはいなかったんで・・・。」

だから、「卒業して2年くらいOLやったら、結婚して、陶芸家になろうっと」「そう思ってたんですよね笑」なので、就職に関しても真剣には考えておらず、卒業後は先輩から紹介されたシステムエンジニアの会社に就職した。「札幌だったらどこでも良かったんですよ。」彼女はこの会社を「最初から3年だけって」そう決めていたが、仕事は真剣に取り組み、頑張り過ぎるくらい頑張った。すると丁度3年で身体が悲鳴を上げた。

 

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静養中に「よーし次こそ陶芸家をやりながら楽な仕事を!」とそう考え、身体が癒えると、北大理学部で任期付きの研究補助員として働き出した。

それが果たして「楽な仕事」なのかは自分には見当もつかないが、当の本人は「教授の言った通りに実験するだけですから。」と涼しい顔。なんの研究?と聞くと、「DNAのドラッグデリバリー」?がどうしたこうしたとか「遺伝子の微粒子を作って」なんちゃらとかをしていたと話してくれた。

「高橋先生」のテストで「感想」しか書いた事のない自分が、キョトンとしていると、それを察した彼女は、「まあそんな感じですよ!」と、努めて明るく、かつ、おじさんを傷つけないようファジーにまとめてくれた。

 

そんな風にむずかしい研究をしながら、並行して作陶も手掛け、レンタルスペースを借りては作品の販売などもしていたそうだ。北大の任期が終了すると、今度は札幌医大で細胞の培養などの仕事についた。ふと気がつくと30歳を越していた。「あれ?って」「私、結婚できないかもしれないって笑」「じゃあちゃんとした会社に就職しようって」そう考えた彼女は、遺伝子を解析する会社に就職する。そして結婚できないかもしれないからと就職したその会社に運命のあの男が中途入社してきたのである。そう「座間宏太」が。意気投合した二人は、2014年めでたくゴールインした。

 

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結婚後も仕事をしていた「ゆかり」さんだったが、この会社でも3年で身体を壊し、休職することに。

「で、休んでいる間に、『こんな人生はもったいないなぁ』『もっとやりたい事やろう!』って思って、『そうだ!私は、陶芸で個展を開いて、その時に着物姿で作家然としていたい!って決めてたんだ!』って思い出したんですよ。」そしてその陶芸家になりたいという夢を実現させるべく、彼女は意気揚々と門を叩いた。

着付け教室の・・・。あくまでも陶芸家としての自分を演出するための着付け教室ではあったが、そこは彼女も研究者気質。「最初は自分で着られれば良かったんですけど、段々レベルアップして人に着付けたりしてたらそれが楽しくなっちゃって。」最終的に彼女は、その着付け教室の生徒から講師となっていた。

会社には戻る気がなくなり、そのまま辞めた。丁度その頃、ご主人も転職を考え始め、座間家が少しずつ足寄に近づいてきたのは、思えばこの頃からだった。

 

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田舎に住み陶芸家を目指したい妻、コーヒー焙煎を追求し出した夫。ご主人が転職を考え始めた事もあって、将来について語り合った。

二人の結論は、「コーヒーの木を自分達で育てられないか?」これだった。「北海道で育てられたら面白いよね。」と早速、調べ始めると、弟子屈の「川湯の森病院」が温泉熱を利用してコーヒーの木を育て、自家製のコーヒーを試飲している事を知った。「これだ!」二人の夢が一気に現実味を帯びてきた瞬間だった。

そうなるとジッとしてはいられない。休日を利用して二人は川湯へと向かった。そしてその道中、運命の地「足寄町」と出会うのである。

 

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川湯へと向かう途中、トイレ休憩で足寄の道の駅に立ち寄った二人。ただそれだけの事だった。トイレを済ませ、何気なくショップを覗くと、そこに「究極のシュークリーム」なるシュークリームが売っていた。それを買い求め、一口食べると、度肝を抜かれた。「何じゃこりゃ!おいしいぃぃ!」そのシュークリームこそ、当時、

地域おこし協力隊として道の駅でスイーツを製造・販売していたパティシエ「中塚隆雄(なかつかたかお)」さんのブランド「ドゥースモン」のシュークリームだった。「こんな美味しいシュークリームを作る人が足寄にいるんだ!」二人は感動した。しかも、それだけで終わらないのが、研究者上がり。すぐにそのシュークリームについて調べ始めると、中塚さんはもちろん、彼が惚れ込んだ「ありがとう牧場」の放牧牛乳や、「しあわせチーズ工房」のエピソードを次々と知る事が出来た。「『足寄って面白い人がいっぱいいて、エネルギッシュな町かもしれない。』って思いました。」ゆかりさんは、そう話してくれた。そうなると俄然足寄に興味が湧いてきた。

 

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足寄について色々と調べると、温泉熱を利用した「いちご農園」など更に興味を引くポテンシャルがある事が分かった。

二人は更に町を深堀りたいと町の移住業務を引き受ける「びびっどコラボレーション」へ連絡する。そこには当時「びびっど」で事務を担当していた「Guest House

ぎまんち」の「儀間芙沙子(ぎま ふさこ)」さんがいた。彼女からのメールには、「『ぎま』と『ざま』似てますね。」そう書かれていた。妙な親近感を覚えた。

座間屋は今、芙沙子さんの「古道具屋うさぎ」とのコラボカフェ「喫茶レトロ」を定期的に催し、人気を博している。彼女もまた座間家が足寄に移住するに至った重要なファクターとなった事は間違いない。ゆかりさんは、「足寄で色々な人に会わせてくれて、そしたらすぐにでも足寄に住みたくなっちゃって。」そう話してくれた。

足寄は座間夫婦が予感したようなエネルギッシュな人ばかりがいた。

「住むんだ!」そう決めたあとは話しは早かった。当面の安定的収入を得るため、新聞社が募集していた足寄販売所の店長に応募し、無事合格。

こうして座間家は、2021729日晴れて足寄町民となった。

 

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足寄に移住した1年後、二人は満を持して「珈琲座間屋」をオープンさせた。

本格的な焙煎機を購入し、その他の必要な機材を揃え、元々、置いてあったテーブルとイスは、ゆかりさんがヤスリをかけ、塗装し直した。「あれが一番大変でした。」そう言って彼女は懐かしむように笑った。オープンしてからは、市街に本格的なコーヒーを飲める場所がなかったことから、往年の喫茶店世代を中心に喜ばれ、その他、イベントなどに出店したり、お手伝いをしたりして、町民の輪の中に積極的に入っていくといつの間にか座間屋は足寄でお馴染みのお店となった。

 

二人の足寄での仕事や生活が軌道に乗った頃、あの男が前ぶれなく、「馬を飼いたい。」と言い始めた。 「座間宏太」だ。

何故、馬を?と聞くと、「そーですねぇぇぇ。新聞配達してたら、馬を飼っている農家さんが結構あっていいなぁと思って。」 彼のなんとも言えないトーンとなんとも言えないタイム感で話す言葉を聞いていると、「そうだよねぇ。いいよねぇぇ。」と思えてくるから不思議だ。

結果、現在3歳の「マル」と2歳の「レイナ」という牝馬2頭を飼育している。この2頭は輓馬の繁殖馬で「マル」はもうまもなく子供を産むそうだ。

冬は放牧しないため、朝・晩2回、世話をしに自宅と馬小屋を往復する。2頭の馬も彼の人となりを察しているのか懐いている様子だ。ご主人様の事をよくわかっているのだろう、そう思っていると、彼がボソッとこう呟いた「2頭とも馬主は、嫁なんですよね。」 「座間宏太」は、ご主人様ではなかった。

「じゃあ厩務員じゃん。」そう自分が言うと、「そうなんですよぉ。厩務員なんですよ。へへへ。」と何故か照れくさそうにはにかんだ。

「マル」と「レイナ」は、話しを聞いていないフリをしてワシャワシャと草を食べていた。

 

マル

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レイナ

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「珈琲座間屋」には、ご主人が焙煎するコーヒーがブレンド、ストレート合わせて常時7~8種類置かれ「焙煎したてを提供する!」のコンセプト通りの美味しいコーヒーを楽しむ事が出来る。また、家庭用やお土産用にオリジナルのコーヒーバッグも販売しており、こちらも人気だ。

更に道の駅では、「足寄限定商品」として4種類のコーヒーが楽しめるドリップコーヒーのセットや、足寄で栽培している「スウィーティーアマン」という「いちご」を合わせたドリップコーヒーを販売。この「いちごドリップコーヒー」は、足寄町の「ふるさと納税」の返礼品にもなっている人気商品だ。

そんな自慢のコーヒーの他、「ホットドッグ」や「うどん」などのフード、「どら焼き」に「パステルレウス」のチーズケーキなどのスウィーツも充実。

もちろんコーヒー以外のドリンクもある。更に、足寄産の野菜、そして陶芸家「春菜ゆかり」先生の作品も販売している。

「春菜」とは奥様の旧姓で陶芸家としてはこちらの名前を名乗っているそうだが、「春」の「菜」。素敵な苗字だ。そんな春菜先生の作品は、座間屋で使われているから、気に入ったらすぐに購入できるのがまたいい。客の年齢層は高めだが、最近は部活帰りの高校生や、お母さんと一緒に来て常連となった中学生もいるとか。

少しずつ、少しずつ、足寄の風景に馴染んでいっている。

 

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「町外の方にもコーヒー飲みに来てもらって、ついでに町内を色々回ってもらいたい。だから、足寄ももう少し観光客が楽しめるようにしてもらいたいですね。」

ゆかりさんがそう話すと傍らのご主人も小さく頷いた。「夢?最終的には足寄でコーヒー農園です。」ゆかりさんがそう言って笑うと、ご主人もニコッと微笑んだ。

 

お店にかかっている昔懐かしい柱時計は、チクタクチクタクと時を刻み、ゆっくりとまあるい時間が過ぎてゆく。いつものように深煎りの「マンデリン」をオーダーし、いつものように「じゃあまた!」と座間屋を出ると、いつものように香ばしいコーヒーの香りと、春の気配がした。

 

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「珈琲座間屋」 足寄町北一条 1丁目3-1  coffee.zamaya@gmail.com

 

Instagram https://www.instagram.com/coffee_zamaya/?utm_medium=copy_link

 

 

足寄町ふるさと納税  

https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html

 

 

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