北海道足寄郡足寄町。東西に長いこの町は上から見ると「鷲」だろうか「鷹」だろうか、何しろ鳥が東に向け飛び立つような形をしている。その面積はおよそ1,400平方キロメートル。そう言われても全く見当もつかないがとにかく「なまら広い」町だ。自分が子供の頃は「香川県とほぼ同じ面積の日本一広い町」と教えられたものだが、残念な事に例えの香川県の事を知らないのだから始末に負えない。何はともあれ「とにかく広い町なんだなぁ」と認識はしていた。当時足寄町は正確に言えば「市町村として日本一の広さ」だった。しかし「平成の大合併」以後、その座を奪われてしまう。それでも「町」としては現在も日本で一番広く、私たちはまさしく「大空と大地の中で」育ったのである。そんな広大な我が故郷には、実は「滝」が数多くある。一番有名なのはオンネトー地区にある「オンネトー湯の滝」だろうか。ここはその名の通り温泉が流れる滝なのと同時にマンガン酸化物生成現象が地上で見られる世界で唯一の場所。国の天然記念物にもなっている高さ30m、2条からなる滝なのである。
足寄にはこの「オンネトー湯の滝」を始め、10を超える滝が広い広い町内に点在しているという。
そんな貴重な観光資源を視察しようと「あしょろ観光協会」の事務局長、通称「キョクチョー」が「あしょろ滝巡りトレイル」を企画してくれた。参加したのは足寄町役場商工観光振興室と観光協会のスタッフ計7名。朝9時に「道の駅あしょろ銀河ホール21」を出発し、まずはオンネトーに向けて車を走らせた。晩秋の国道241号は、カラマツが黄金色に森を染め、1時間の道のりに彩りを与えてくれた。
秋の終わりを映したオンネトーの色は濃藍で、それはそれで哀愁があって良いものだ。湖面に陽の光がキラキラと揺れていた。一行は来年オープン予定の新しい「オンネトー茶屋」を見学し、キョクチョーが用意してくれたコーヒーを飲み干すといよいよ滝巡りトレイルのスタートだ。
今回の「あしょろ滝巡りトレイル」で訪れる滝は全部で4つ。「なんだ4つか・・・。」と思う事なかれ。
冒頭にも言ったように足寄は広い!東の端から西の端まで車で2時間かかる。この日も車に乗っている時間だけでも4時間を超えた。トレイルとは名ばかりだ。
ではまずは1つ目の滝だ。東の端にある「白藤(しらふじ)の滝」。足寄から国道241号を阿寒に向かい、オンネトーの入り口を横目にもう少し進むと左手に控えめな看板が出てくる。そこから山道を5分程行くと開けた場所がありそこで車を降りた。「ドドドォォォ」。既に滝の音が聞こえてくる。逸る気持ちを抑え、急な斜面を恐る恐る下って川の方へ歩くと「白藤の滝」は豪快に水を叩きつけていた。雌阿寒岳から流れる「白水川」にあるこの滝は、火山の土や硫黄の影響により1年中、水が濁っている。
トーテムポールを思わせるような荒々しい柱状節理に囲まれ、その落差は20メートル!「滝って言ってもなぁ・・・」と少々なめていたが、一つ目の滝で圧倒された。
Photo By 金根
1つ目の「白藤の滝」で一気にテンションが上がり、それ以降の滝が楽しみになってきた。
キョクチョーの鳴らすクマ避けの音がオンネトーの森に鳴り響く。滝は楽しみだがクマに出くわすのはごめんだ。そう思いながら帰りの急斜面を登った。
次に向かうのは山を越えた上斗伏(かみとぶし)というところにある「トブシの滝」。この日は少し遠回りをして足寄と、お隣の陸別町をつなぐ「カネラン峠」を越え、陸別でランチをしてから向かう事になった。初めて通った「カネラン峠」、足寄側は砂利道だったが、程なく立派な舗装道路となり、もう少し早い時期だと紅葉が素晴らしかったはずで、ドライブに持ってこいのコースなのだろう。来年の秋は絶対にドライブしようと思った。陸別でランチを摂った後、一行は国道242号を足寄へと向かって走った。
今回は陸別から回ったが、足寄から陸別へと向かい、上利別という集落を過ぎ、「上利別橋」「第3利別橋」ときて3つ目の「第4利別橋」を渡るとすぐ左手に高台への続く道が出てくる。その入り口に車を停めると、「トブシの滝」はすぐそこだった。落差は4メートル程と「白藤の滝」に比べると豪快さに欠けるが、段々の岩肌を滑り落ちる水は最後に2条に別れ、どうしてどうしてなかなかの見ごたえだった。
途中、滝から流れ出る小川をヒョイと飛び越えなければいけないがそこが一番の難関。キョクチョーが鳴らすクマ避けの音も短い時間で十分だった。
Photo By 金根
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「トブシの滝」を後にし、次に向かったのが「白糸(しらいと)の滝」。242号を足寄に戻り、上利別を過ぎると間もなく右に道道清水谷-足寄線の入り口があり、そこを入ってからおよそ15分。突然右手に「白糸の滝」と書かれた看板が現れた。うっかりすると見過ごしてしまいそうだ。
そこを右に入り、広場に車を駐車。「白糸の滝 入口」という矢印看板の案内通りに入っていくと、そこは小さなえん堤が整備され、先に目をやると30~40センチの落差で水が流れ落ちていた。それを目にした自分は何を思ったのか「えっ?あれが白糸の滝??」。なはずはなく、皆の嘲笑の的となった。
35年ぶりに故郷に帰り、自然の中で毎日を過ごしていると自分の中の天然がむくむくと育ってきたようだ。顔を真っ赤にしながら奥へ進むと、水がまさに白糸を引くように美しく流れ落ちていた。「白糸の滝」は、地名の「白糸」から来ていると言われているが、地名がこの滝に由来しているのではないかと思える程だ。「この滝は湧き水なんだよ。」キョクチョーが言った。この「白糸の滝」は川が流れ落ちているのではなく、滝の上部で水が湧いていてそれが流れ落ちているのだという。滝の横を用心しながら登り、上に辿り着くと、キョクチョーが言った通り、湧水がポコポコと湧いて出ていた。思わず「すごい!」と感嘆詞が出た。
偽糸の滝!?
「白糸の滝」の次に向かうのは、このトレイル、最後の滝であり、一番森の奥深くとなる「巨岩(おおいわ)の滝」だ。白糸から足寄の西の端、芽登(めとう)へ向かい車を走らせる事、小1時間。秘湯と呼ばれる「芽登温泉」の入り口から左に別れる林道には「あと4.5キロ」と書かれていた。砂利道を更に進むとようやく森の中に「巨岩の滝」の看板が現れた。早速キョクチョーはクマ避けに余念がない。それはそうだクマがいないはずがない山の奥のそのまた奥なのだから。看板から林の中を進み、急な斜面を降りると、岩の下のところから勢いよく水が流れ出していた。これまでの滝とは全く違う荒々しさだ。もう少し川下に歩くと、滝の全貌が姿を現した。山奥から流れ出る糠南川(ぬかなんがわ)の段差は、真ん中の岩が境となり、二筋の滝となって落ちていた。昔、国有林で伐採した木を下流に流す際に丸太が岩にぶつかり、一筋だった滝が二筋になったと言われている。まあとにかく荒っぽい滝である。更に圧巻は滝を上から見る事だ。滝が落ちる前に大きな窪みがあり、大量の水が一度そこに溜って、それが一気に流れ出ている。大迫力だ。こんなところに落ちたら一巻の終わり。周りの木につかまろうにも枯れ枝で心もとない、フェンスなどないので見に行くという方は十分な注意が必要となる。
Photo By 金根
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こうして「あしょろ滝巡りトレイル」は1日を終えたが、滝を見ている時間よりも移動している時間の方が遥かに長かった。改めて足寄は広いなぁと感じたが、滝巡りは期待以上に楽しかった。また違う季節にも来てみたいし、違う滝も是非見てみたい。帰り道、足寄湖に寄ると白鳥が夕暮れの空、羽を休めに我らの頭上を次々と舞い降りた。キョクチョーがクマ避けを鳴らす必要はもうなかった。
※ 滝巡りをされる際には滑りにくい履物などの装備が必要です。
※ クマ鈴などクマ避けの用意が必要です。
※ トイレは整備されておりません。ポイント、ポイントで事前に済ませておく事が必要です。
※ 国有林、私有地、また大変危険なところもあります。マナー違反や無理な行動、ゴミ・タバコのポイ捨てなど自然破壊行為は絶対にお止めください。