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足寄物語~Ashoro Stories その2 「ありがとう牧場」

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「どこからどこまでがお宅の牧場なんですか?」と聞くと「見渡す限りです。」と男は答えた。

彼の名前は「𠮷川友二(よしかわゆうじ)」、足寄町の西部地区・茂喜登牛で「ありがとう牧場」を経営する酪農家だ。

この辺りは高原で急峻な土地が多く畑作には向かない事もあり、足寄の中でも特に酪農が盛んな地区で中矢から茂喜登牛、植坂を抜け白糸の大規模草地をつなぐ道路は「ミルクロード」と名付けられている。

牧場主が「見渡す限り」と言うだけあり「ありがとう牧場」は見渡す限りが「ありがとう牧場」だった。

その広さおよそ100ヘクタール。ありがちな例えをするなら東京ドーム21個分。一面牧草地の緑が連なる景色はいわゆる北海道らしい景色の1つであろう。晴れていれば遠くに雌阿寒岳と阿寒富士が見えるとにかく気持ちのイイ場所である。

そんな牧場の少し小高い丘の上に素敵な木の家を建て奥様の「千枝(ちえ)」さん、末っ子の「光里(ひかり)」くんと3人で暮らす。上の3人のお子さんは高校や専門学校に通うため家を出ている。

こんなところに住んでいると大らかに育つんだろうなぁと思っていると外出から帰宅した光里くんは声をかけた父にぶっきらぼうに答えた後、鏡の前で入念に髪を整えだした。やはりどこで育っても思春期の少年は思春期の少年だ。彼と同じく足寄の酪農家に生まれた自分も思い返せばそんな時期があった。

遥か彼方に去った中学生の自分を彼に重ね合わせた。

 

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𠮷川の「ありがとう牧場」は、放牧のみで牛を飼育する「放牧酪農」で牛乳を搾る牧場だ。

「ありがとう牧場」を含む足寄の西部いわゆる「芽登(めとう)」方面では1997年に「足寄町放牧酪農研究会」が結成され広い草地を利用した放牧酪農が盛んな地域である。

そんな場所に𠮷川が新規就農したのはシドニーオリンピックを3か月後に控えた2000年6月。

離農する老夫婦から受け継いだ牧場は、離乳したばかりの子牛30頭からのスタートだった。

そもそも𠮷川はどうして農業を目指したのだろう?

𠮷川友二は長野県上田市のサラリーマンの家に生まれた。しかし農業と接点がなかったのかと言えばそうではない。母方の親戚が皆農家で田植えや稲刈りの季節になると手伝いに行きそれが楽しみで仕方がなかった。更に𠮷川少年は殊更自然が大好きだった。

「川で手づかみで魚を捕まえたり遊びまわりました。川ってすごく豊かで立ってるとこう土踏まずのところに小魚が入ってくるんですよ。時を忘れて自然の中で遊ぶのは至福の時でしたよねぇ。」

ところどころ長野訛りと思われるイントネーションで訥々と話す𠮷川は酪農家というよりもちょっと変わった大学教授という風情の人だ。目をつむり静かな口調で語りかけてくるその様子は独特のインテリジェンスを纏っている。リズムはまるでそう牛のようにゆったり。周りの自然と呼応するように生きている。そう感じた矢先、穏やかな口調はそのままだが彼の言葉は一瞬怒気を孕んだ。

「そんな風に自然が大好きだったので、水俣病とかイタイイタイ病とかのニュースを見て、公害とか農薬などによる自然破壊に怒りとか悲しみを覚えていたんですね。」

𠮷川と同世代の自分など当時は「イタイイタイ病ってホントに痛そうだなぁ。」くらいにしか思っていなかった。一方の𠮷川少年は「イタイイタイ病」を飛び越えてそんな公害病を生み出す環境破壊に「怒り」を感じていた。そんな感性は一体どこからきたのだろう?そんな疑問を投げかけると𠮷川はまたいつものように訥々と「持って生まれたものですよねぇ。」と答えた。

そんな自然に対する畏敬の念を生まれながらに持った𠮷川が自然とともに生きる酪農家になったのは至極当然の事なのかもしれない。30頭の子牛の放牧からスタートした𠮷川の牧場。当時を振り返りこう話す。「子牛って1か月で資産価値が大体1万円上がっていくんですよ。現金じゃないけど放牧してるだけで30頭いるから1か月30万づつ上がっていく訳だから農業ってのは儲かるもんだなぁって思いましたよ。」

 

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𠮷川の1日のスケジュールは概ねこんな風だ。

夏場は朝4時半ころから放牧していた牛を追い搾乳が始まる。8時ころに搾乳が終わると休憩し、その後、放牧場の区分け、それに伴う水道パイプのつなぎ分け。それから子牛や育成牛の世話をし、家で使う薪割りや草刈りなどをしているとあっいう間に夕方になり、再び牛を追って夜の搾乳。「暗くなると仕事したくなくなるから」と午後6時ころには乳搾りを終え、牛たちを放牧に送り出す。

この作業を奥様と実習生がいるときには共に行っていく。しかし牧場がスタートした当初は規模は今よりも小さかったものの、この作業を𠮷川一人で行っていた。

「最初はもう無我夢中で。この牧場から雌阿寒岳と阿寒富士が見えるんだけど、そんな事知らなくてある日友達が遊びにきた時に『おぉ阿寒が見えるぞ!』って言われて初めて『ああここから阿寒岳が見えるんだ』って気づいたんですよ」。

一人で酪農を続ける大変さ。また足寄町の新規就農の条件に「夫婦で」という項目もあった事から𠮷川はお嫁さんを大募集していた。

酪農学園大学名誉教授の「荒木和秋」氏による「よみがえる酪農のまち 足寄町放牧酪農物語」の中にこんな記述を見つけた「𠮷川はパートナーを確保すべく2000年夏に上士幌町のナイタイ高原でのテレビ番組『目撃ドキュン』という農業青年と都会女性の出会いの番組に出演したものの、最終的には相手に断られた。」

再び一人で黙々と仕事を行う日々の中、𠮷川の元に1本の電話が入った。同じ茂喜登牛の先輩酪農家からだった。「イモ団子作ったから食べに来いや」。そう誘われてお邪魔するとそこにいたのが現在の伴侶千枝さんだった。富山生まれで北海道で酪農をするのが夢だった千枝さんは1週間の休暇を利用してその先輩酪農家宅に滞在し、体験実習を行っていた。千枝さんに会った𠮷川は、前述の「よみがえる酪農のまち 足寄町放牧酪農物語」によると「あまりにも可愛くて美人だったのでびっくりした。」と運命の出会いを振り返っている。一目惚れだった。

イモ団子で釣ってまんまと千枝さんに喰いつかせた先輩酪農家がほくそ笑んだ事は言うまでもない。

その年の暮れには結婚を約束し、翌2001年3月に入籍、5月には𠮷川の牧場で盛大に披露宴が行われた。

そこから千枝さんとの二人三脚で放牧酪農を実践し今の「ありがとう牧場」に至る。

どうして「ありがとう牧場」と名付けた?と問うと𠮷川は「うーん。いい質問ですねぇ。」ニヤリとし、

「結婚して二人で牧場をやるんだから𠮷川牧場というのは・・・。なんか名前をつけたくてあれやこれや提案したんだけどすべて妻に却下されて、ある日池田の『ハッピネスデーリィ』でアイスクリーム食べながら『ありがとう牧場』ってどう?って言ったらそれが採用されたんです。

ハピネス、ハピネス、しあわせ、しあわせ、しあわせ、ありがとう牧場ってなったんですねぇ。きっとねぇ。」𠮷川は自身の独特の感性を他人事のように語った。

 

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「農業で一番大事なのは自然の力を生かせるかですよね。」穏やかな𠮷川の口調は相変わらずだがほんの少し熱を帯びてくる。

「放牧酪農をすると牛が放牧地をつくってくれるし、餌は自分で食べてくれるし、糞尿も自分で撒いてくれて草はそれで育ち、土づくりにもなる。自然の力を最大限に生かせるんですよ。」

「ありがとう牧場」の牛が生み出す牛乳は今、千枝さんが商品化し、多くのファンを増やしている。

チーズ職人、パティシエがこぞって「ありがとう牧場」の牛乳を求め足寄に住み始めた。

彼らがつくる製品は足寄の新しい顔となっている。また新規就農して放牧酪農に挑戦する若者も増えた。

ちなみに足寄町は2004年に「放牧酪農推進のまち」宣言をしている。

しかし北海道の酪農は今、規模拡大・ロボット搾乳などが推進され、放牧酪農は絶滅危惧種となっているという。𠮷川は「放牧酪農があったから足寄に人が集まってきた。チーズなどの乳製品やお菓子から酪農の文化ができてきたらいいですね。だから消費者の方には『放牧酪農って環境にいいし、人間の健康にもいいし、おいしいし、いいよね。こういう酪農してほしいね』って言ってもらいたい。消費者に応援団になってもらって放牧酪農家を増やして農村人口を増やしたいんですよ。」

夢を語る𠮷川の根底には少年時代、田植えをした、川で魚を捕まえたあの至福の時間が流れている。

 

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「ありがとう牧場」の牛乳は放牧のみのため、季節によって味わいが変化する。

夏の放牧期間は、ビタミンたっぷりでさっぱりとした味わい。春と秋は、タンパク質や脂肪分が高く、濃厚な味が楽しめる。またこの牛乳を使っての「朝搾り放牧ソフト」も人気。

搾りたての生乳と北海道産グラニュー糖、足寄産のささ塩のみを使ったふんわり柔らかいソフトを北海道で「棒」の意味の「ぼっこ」にした。つまりアイスキャンデーのようなソフトだ。

それらは道の駅あしょろ銀河ホール21のショップで手に入るし、「ありがとう牧場」のサイトからの問い合わせも可能。また足寄町の「ふるさと納税」の返礼品にもなっているので是非是非お願いしたい。

「ありがとう牧場」の牛たちは今日も明日も明後日も見渡す限りの牧場でゆったりと草を食んでいるに違いない。おいしい牛乳をありがとう!

 

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「ありがとう牧場」 北海道足寄郡足寄町茂喜登牛98-4 (0156) 26-2082  https://arifarm.net/

(※オープンファームではありません。) 

 

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足寄町役場 経済課商工観光振興室商工観光・エネルギー担当

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