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足寄物語~Ashoro Stories その24 「北海道遺産 ラワンぶき」

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「コロポックル」。アイヌに伝えられる伝説のコビト達の名は、「蕗の下に住む人」という意味がある。

そして足寄には、正にその下に「コロポックル」が住んでいたのではないかと思わせてくれる大きな大きな蕗があるのをご存知だろうか?

その名は「ラワンぶき」。今や足寄の特産として広く知られるおいしい蕗である。この「ラワンぶき」は、足寄の螺湾(らわん)地区の主に「螺湾川」周辺に100年以上前から自生していた。「螺湾川」。その源流は、雌阿寒岳の麓にある美しい湖「オンネトー」。足寄に演習林を持つ、「九州大学」と「足寄動物化石博物館」などの合同調査チームによると、この川の水には、窒素、リン、カリウム、マグネシウム、カルシウムといった植物の成長に必要な栄養分が、平均的な河川の水よりもおよそ10倍程多く含まれていることが分かり、その水が螺湾川沿いの土壌に入る事によって栄養分が増し、ラワンぶきという巨大なフキが自生するようになったようだ。それに加えて、町の気候や、雌阿寒岳噴火によってもたらされた火山灰による土質など様々な

条件が重なった事が要因と考えられているが、その謎の全貌は、まだまだ解明されてはいない。

 

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道の駅あしょろ銀河ホール21に入ると、我が町出身のスーパースター「松山千春」さんのコーナーがあり、その正面には、千春さんとラワンぶきが並ぶ等身大のパネルがドーンと出迎える。訪れた方は必ずと言って良い程このパネルの前で記念写真を撮影し、ラワンぶきの大きさに驚嘆の声を上げる。

千春さんの身長は、ネット情報によると170センチと言うから、片手に持つラワンぶきは、2メートルを、遥かに超えている。そんなラワンぶきは、千春さんとのパネルの右下にあるように、2001年に「北海道遺産」に選定された。

 

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ラワンぶきの里、螺湾川沿いに住み、自生地を持つ「阿部農場」の「阿部喜一(あべ きいち)」さんは、「昔は、3メートルにも4メートルにもなって、もっといっぱい生えてたんだ。」と話してくれた。

阿部さんによると、台風や大雨による川の氾濫が起きるたびに、ラワンぶきの自生地が流され、少しずつその面積を減らしていったという。80年代から90年代は、自生地を持つ農家でグループを作り、葉がついたままのラワンぶきを「ラワンぶきの1本送り」と題し、地方発送なども行っていたが、自生地が減ってきた事に加えて、メンバーの高齢化や離農などの要因が重なり、自生するラワンぶきを販売しているのは、「もう、うちと隣だけでねーか。」と喜一さんは寂しそうに呟いた。

 

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道の駅あしょろ銀河ホール21のショップには、ラワンぶきを使った商品が数多く並ぶ。

その中に、螺湾のかあさん達が作ったラワンぶきの佃煮「ほらふき」と「らわんぶき炊き込みご飯の素」がある。それらを作るのは、「らわんぶき食品加工研究会 ふきのとう」。螺湾地区の農家のかあさんが集まって1996年に結成されたグループだ。当初5人いたメンバーは、やはり高齢化や離農などで今は、「木村栄子(きむら えいこ)」さんと、「須藤美江子(すどう みえこ)」さんの2人だけとなった。

「昔、農業女性の海外研修があって、その報告会にたまたま集まった螺湾の5人で作ったの。最初は、こんなとこで楽しみもなんもないから定期的に

集まってお茶飲みでもしないかいって事で集まったんだよね。」そう話してくれたのは、グループの結成を持ちかけた木村栄子さん。はきはきとした元気なかあさんだ。「そんな事している内に、それぞれ家族で稼いだお金で私らだけお茶飲みしてるのは申し訳ないって事になってね。じゃあ自分らで稼いでそのお金で堂々とお茶飲もうやってラワンぶきの直売を始めたんだよねぇ。」栄子さんは、隣に座る美江子さんにそう問いかけるように話すと、美江子さんはニコニコと笑顔で頷いた。

 

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1997年、「お茶代を稼ごう!」と農家のかあさん達が挑戦したラワンぶき直売所は大成功だった。

「もうオープンの前日から行列が出来てね。採ってきても採ってきても追いつかないくらいだったんだよ。楽しかったねぇ。あの時。若かったし。アハハ!」そう話す栄子さんの顔は、当時のワクワク感そのものの顔だった。直売所ではその後、自分達で作った野菜や蕗以外の山菜なども販売し、人気となったが、やはり自生のラワンぶきが減ってきた事や、身体的にきつくなってきたという事で、1999年ラワンぶきを使った加工食品の研究をスタートさせた。どんな商品を作るのかという事と並行して、加工所も町が所有していた物置を借り上げ、自分達で改修した。

「みんなで出資して、ペンキ塗りとか、中古屋さんに行って、流し台なんかを買って、取り付けしたり。楽しかったねぇぇ。」よっぽど楽しかったのだろう。栄子さんは、「楽しかったねぇぇ。」を連発し、美江子さんは、相変わらずその横でニコニコと頷いた。

 

(左 木村栄子さん、右 須藤美江子さん)

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「ふきのとう」のメンバーが最初に挑戦した加工品が、ラワンぶきの佃煮「ほらふき」だった。

メンバーが5人いたから、一人一味という事で、5つの味を作ることになった。「みんなで試作品を作っては持ち寄って、あーでもない。こーでもないって。怒ってケンカして、泣いたり笑ったりしてねぇ。」そんな風に5人の喜怒哀楽が詰まった「ほらふき」は、「身欠きニシン」「ショウガ」

「ゴマ」「カツオ」そして「ピリ辛」の5つの味が完成した。次に彼女たちが手掛けたのは、「炊き込みご飯の素」。当初は3種類作ったが、サケを使った商品は、魚の仕入れ値が高騰したため、現在は、「トリ肉」「大豆」の2種類で、足寄町の「ふるさと納税」の返礼品にもなっている。

 

現在、「ふきのとう」は、栄子さんと美江子さん二人で「らわん蕗の里」という施設内の作業場でそれらの商品をせっせっと作っている。

また栄子さんは「ふきのとう」とは別に、「夢螺工房」という工房を作り、「ラワンぶきジャム」を初めとした町に根差した商品を産み出し、更に新しい商品開発にも余念がない。この日もラワンぶきのパウダーを練り込んで作ったという「シフォンケーキ」をご相伴に預かった。

「一緒にやりたいっていう若い人がいたらいいけど、いないもねぇ。」と栄子さんが寂しそうに呟くと、それまでニコニコしていた美江子さんが「でも二人でもけっこう作るよぉ。」とうそぶいた。そして二人は顔を見合わせると「ねぇ!」と声を合わせた。

二人は今だってあの頃と同じように「楽しそう」だ。

 

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ラワンぶきは、前述したように度重なる川の氾濫で、自生地が流され、徐々にその数を減らしていった。

これを危惧した町と「JAあしょろ」が、安定的に生産できるようにと、1989年、ラワンぶきの根の培養を始め、1991年から町内の農家がラワンぶき栽培をスタートさせた。しかし、当初はなかなかうまくいかずに生産数も上がらなかったが、その後、種を採取し、苗を育てる事に成功してからは、生産も安定。現在は14戸の農家がラワンぶき生産に取り組み「JAあしょろラワンぶき生産部会」として情報交換しながら昨年2022年は325トンを出荷している。

 

そんなラワンぶき生産部会で長年、会長として栽培に取り組んできたのが、町内の鷲府(わしっぷ)地区で5代続く「鳥羽(とば)農場」の4代目「鳥羽秀男(とば ひでお)」さんだ。自分よりも4つ上の先輩で子供時代は、同じスクールバスに乗って通学していた。足寄高校時代は、まるで「嗚呼 花の応援団」(古い・・・)ばりの長ラン姿を目撃した事もあるヤンチャな、いやヤンチャだった先輩である。

「鳥羽農場」は、そんな秀男先輩と奥様の「昇子(しょうこ)」さん、そして現在5代目の当代である息子の超イケメン「翔太(しょうた)」さんの

3人が作業に励む。ちなみに取材の際に昇子さんが2つ下の後輩という事が発覚し、背筋がゾッとした。学生時代の自分を知っている人、特に後輩に

会うのは気が引ける。「なんで?」って、それは聞かないのが人情というものだ。

 

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アメリカの食品マーケティング協会「FMI」が管理する「食品安全・品質管理」の「SQF」認証を持つ鳥羽農場では、現在「長イモ」「小麦」「玉ねぎ」そして「ラワンぶき」の4品目を栽培している。「ラワンぶき」栽培に関しては、唯一の「地域特産物マイスター」としても認定・登録されるなど、足寄のラワンぶき栽培の第一人者がこの「鳥羽農場」だ。

JAあしょろが、栽培に取り組んだ当初から「地域の特産をなくす訳にはいかない。」と栽培を引き受けたが、当時は「自分のとこで食べられればいいかなぁって思ってた程度だ。だって大きくなるなんて思ってなかったもの。」秀男さんは、そう話してくれたが、予想に反してワランぶきは、螺湾川流域ではなくても大きく育った。ただし、栽培を軌道に乗せる事はそう容易くはなかったそうだ。一番苦労したのが、「防虫」。

フキに害を及ぼす「ウスグロハナアブ」という虻が、春先にラワンぶきの根に卵を産み付け、鳥羽農場では全く収穫できない年が何回もあったという。困り果てた秀男さんが農業普及センターに相談すると、「最初はそれヒトデの粉だの、松のエキスだの使ったんだけど、全く効果がなかったのよ。」

そして最後に行きついたのが、ふき畑全面にシートを被せるという荒業だった。この方法は、90年代後半に足寄の産業クラスターの研究会が、ラワンぶき栽培において、農薬を使わない防虫方法を試した際に効果が認められた方法だった。ただ、その時に使用していた防虫シートは、重量もあり、価格も高かったため、鳥羽農場では、「パオパオ」という農業用の不織布シートで代用。するとその効果はてき面だった。

ただし、幅5メートル、長さ100メートルの「パオパオ」を人の手で畑全面に敷き詰める作業の過酷さは、想像に難くない。昇子さんは、「張るのも大変。剥がすのも大変。」と溜め息交じりに呟いたが、一方で、「でも今はもう、パオパオなしでは考えられない。」と、可愛いらしい名前の「パオパオ」が、ラワンぶき栽培では欠かす事の出来ないものだと教えてくれた。

 

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ラワンぶきは、苗を植えると3年後から概ね10年程収穫が見込めるという。毎年雪が融けると顔を出す、ふきのとうの除去からその年の作業はスタートする。ふきのとうは伸びるのが、蕗よりも早いため「パオパオ」を張るのに邪魔になったり、穴を開けてしまうため、絶対に採ってしまわなければならないそう。その作業が終わると、まだ蕗は出てきていない4月半ばから「パオパオ」を張る。概ね1か月間張ったのち、5月半ばに今度はそれを剥がす作業。それから蕗はグングンと伸び、6月の10日前後から刈り取りが始まり、豊作の年は7月の頭までおよそ1か月間刈り取り作業が続く。

この作業行程をラワンぶきの場合、すべて人の手で行う。刈り取りは、大きなラワンぶきの下にまるでコロポックルのように潜り込み、鎌を使って刈り取るが、蕗の葉の下はまるでサウナのようだという。そんな農家さん達の過酷な手間を経て、ラワンぶきは我々の口に入るのだ。

 

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鳥羽農場は、安全に配慮した無農薬・無化学肥料での栽培や、食育活動などが高く評価され、2014年に「第9回コープさっぽろ農業賞特別賞」を受賞している。今年も6月22日に足寄小学校の2年生が鳥羽農場を訪れ、ラワンぶき畑のスケッチや、採りたてのラワンぶきを味わうなど郷土の特産について

勉強した。更に前日には、網走市にある「日本体育大学付属高等支援学校」の3年生も、フィールド学習の一環として鳥羽さんを訪れている。

そんな風に町の宝物を栽培し、更には、知ってもらう活動をするなどその功績はラワンぶき並に大きい。

そして今回は、生産部会を代表して鳥羽さんにご協力いただいたが、他の13の生産農家も、それぞれが創意工夫し、美味しい故郷の特産を未来に繋げるために、日々過酷な作業に挑んでくれているのだ。

 

そんな「JAあしょろラワンぶき生産部会」の農場が愛を込めて作ったラワンぶきは、JAあしょろの山菜工場に出荷されるが、生のラワンぶきの時期は、わずか1か月弱。6月の上旬からいっぱいまで、道の駅エリアにある「寄って美菜」で販売するのみ。また直売は、町内中足寄の「永井農場」さんが

直売所を設けているだけだ。そんな貴重な生のラワンぶきは、町内の飲食店で、この時期に限り天ぷらなどの料理で味わえる。是非あなたにも短い旬の味を楽しんでいただきたい。

 

一方、ラワンぶきは加工品も充実している。JAあしょろの山菜工場で作られる商品の95パーセントは「水煮」。今では道内の大手スーパーなどでも見かけるこの水煮は、収穫時期のみ新物の水煮商品が販売される。やはり水煮にしても新物は香り高く、食感も柔らかいプレミアムな商品だ。

その他には、味噌味、醤油味、キムチ味、梅味という4種の漬物を足寄で製造。

また、ラワンぶきとニシンの煮物や、ラワンぶきカレー、ラワンぶき海苔佃煮などラワンぶき関連の商品は数多く、「寄って美菜」や「道の駅あしょろ銀河ホール21」などで購入できるほか、町の「ふるさと納税」の返礼品として人気を博している。

 

更に、砂川市発のコスメティックブランド「SHIRO」では、ラワンぶきからあふれ出る水分を絞ったジュースを利用した「ラワンぶきフェイスウォッシュ」「ラワンぶき化粧水」などのスキンケアアイテムを製造販売し、それらの製品は、肌荒れを防ぎ、肌に潤いを与えると喜ばれている。

「SHIRO」にラワンぶきを提供しているのは「鳥羽農場」だ。こんな風にたかが蕗なのだが、ラワンぶきが持つポテンシャルは蕗のそれに留まらない。

足寄町にしかない、世界に誇る貴重な特産物なのだ。

 

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足寄町では、2023年6月25日に、「足寄ふるさとラワンぶきまつり2023」が開催される。

このまつりは、開催を決定した途端にコロナ禍となり、一度も開催できずにいたが、今年ようやっとリアル開催にこぎつけた待望のまつりだ。

「足寄ロータリークラブ」のチャリティ生ラワンぶき販売。「足寄町商工会女性部」のラワンぶきを使ったグルメブース。その他にも町内の飲食店などがラワンぶきメニューを出す。その他、ステージイベントなどもあり、久しぶりの賑やかなイベント開催に町の人も心躍らせる1日になるはずだ。

是非たくさんの方に参加していただきたい。

 

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ラワンぶきは、また来年も、その次の年も6月になれば青々とした葉を広げ、グングンその背を伸ばすだろう。あなたもまた6月になれば、ラワンぶきの葉の下に。コロポックル気分を味わいに。足寄を訪れてみてはいかがだろう。そう。6月になれば。

 

 

 

 

「ラワンぶき」 (「ラワンぶき」は、JAあしょろの登録商標です。)

https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/kanko/furusato-rawanbuki-webfes/

 

 

「JAあしょろ」

https://www.jaasyoro.jp/

 

「足寄町ふるさと納税」

https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html

 

「SHIRO」

https://shiro-shiro.jp/category/242/

 

 

Thanks to.

オフィス・ゲンキ(株)

(株)シロ

 

 

※ コラム内の情報は、2023年6月現在の情報です。

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