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足寄物語~Ashoro Stories その26 「足寄ひだまりファーム / Café de Camino / BLANK HARDCIDER WORKS(後編)」

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2017年、足寄町に官民連携でオンネトー地区のあり方を考える「オンネトーの魅力創造委員会」が結成され、沼田正俊はそのメンバーとして参加をしていた。そしてオンネトー国設野営場に新しい休憩舎を建設する事が決まると、事務局に民間と行政とを繋ぐ役割の「地域おこし協力隊」が募集される。

そこに応募してきたのが、「細矢千佳」ちかちゃんだった。こうして2018年に沼田とちかちゃんの「道」=「カミーノ」が交差する事になる。

 

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当初、沼田は現在の「UPIオンネトー」である新しい休憩舎でのカフェ営業を目指していた。しかし、行政と民間のスピード感の違いなど紆余曲折の末に、この計画を断念。一方、足寄に来て1年程経ったちかちゃんも、官民の間を繋ぐという仕事に悩み、疲れていた。その姿を見た沼田は、「そもそも

カフェを開く準備はしていたし、足寄、本別、陸別にはカフェらしいカフェはないし、彼女に『ヤル気あるなら、やってみる?』って言ったら、『やってみたい。』って言うから、『じゃあやろう!』って笑」こうして交差した二人の「道」=「カミーノ」は、「一つの道」になった。

沼田は、2019年の年も押し迫った12月の末、家族や仲間達に「オレ、カフェやる!」と宣言。年が明けた2020年1月3日には、足寄で「木組みの家」と

いう昔ながらの木を使った家づくりを提唱し高い評価を受ける「木村建設」の木村祥悟社長に連絡。カフェの建物に関して一任した。

「例えば、今はコンテナ使って安く造ろうと思えば出来るんですけど、折角、祥悟が足寄で『木組みの家』を頑張ってるんだから、その応援もしたいなって。」「ただのカフェじゃなくて、『木組みの家』のモデルハウス的な使い方も出来たらいいよねって言って、だから大工さんとか建築関係の人が

建物を見によく来ますよ。」「祥悟に全部任せたんで、僕はほぼほぼ意見は言ってないんですよ。」沼田は笑いながらそう話した。

こうして、その年の夏の開業を目指し「カフェ・デ・カミーノ」は一歩目を踏み出した。

 

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木村建設にカフェのハード面を一任。次はソフト面だ。「やっぱりカフェだから、カレーとかパスタとかがあった方がいいかなって、ちかにお願いしたら『出来ません。』って言われました。」沼田は笑いながらそう言うと、「じゃあ、最初はソフトクリームに飲み物と、簡単な食べ物で始めようって話して。でも『練習はしてね。』っては言いましたけどね。」

一方のちかちゃんは、「基本的に私一人の1オペでやらなくてはいけないので、不安でしたし、オープン予定の8月は最も忙しい時期だと思ったので。」と振り返ったが、彼女はカフェを運営するに当たり、一つの想いがあった。「そもそも私は、ここをカフェとは思っていなくて、人と人を繋ぐコミュニケーションの場と思っているんです。だから、料理する事に忙殺されてここに来てくれた方とお話しも出来ないのは違うなって。だから沼田さんには、『料理は作れません!』って。伝え方がうまくなかったですね。」そう言うと、「へへへ」と微笑んだ。

「人が人と関わる場を作れたら。」そう考えて社会に出たちかちゃんは、新しく出来るカフェにその夢を託していた。沼田とちかちゃんの想いが詰まった「カフェ・デ・カミーノ」は、「木組みの家」らしく、十勝産のカラマツをふんだんに使って2019年8月10日、螺湾の国道241号沿いに産声を上げた。

 

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「料理は出来ません!」と宣言したちかちゃんだったが、忙しい夏が過ぎ、冬になって少し時間が出来るとまずは「カレー」の開発に取り掛かる。

これを手始めに、今や1日のメニューの数こそ少ないが、「ひだまりファーム」や足寄、十勝で採れた野菜などの食材を使い、ちかちゃんらしいやさしくて癒される美味しい料理を味わえるようになった。カレー、スープ、キッシュにスコーン。シロップ類もシソや梅などを自分で漬け込み、水やソーダで割って振舞ってくれる。梅は山形の実家から送ってもらったそうで、「山形じゃ梅は買うものじゃなくて拾うものなんですよ。」と教えてくれた。

そのメニューのどれもが、仕込みに時間はかかるが、提供する際にそれほど手間がかからないものばかり。その分、お客様と話しが出来る。

ちかちゃんが考える理想の場所に少しずつ近づいてきた。

彼女に「料理作るの楽しい?」と問いかけると、「食べるのは好き。」とそう答えたと思ったら、間髪入れず「食べるの『が』好き!」と言い直した。

その顔はいつもの「へへへ顔」だ。そんな彼女の働きを見て、沼田は、「今はもう勝手に作ってっしょ。」と冗談っぽく笑ったが、続けて「優秀だと思うよ。元々彼女のコミュ力とか人間性を買っていたから。」そう言って目を細めた。

 

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「人と人が繋がる場にしたい。」ちかちゃんはそんな想いの一つの形として、「木組みの家」ならではの建物の軒先を生かした「軒先マルシェ」を始めた。初夏から秋にかけて毎月2回隔週の日曜日に開催。出店者はちかちゃんが自身の考えるコンセプトを丁寧に説明し、その考えに共鳴してくれたお店や作家さんで、毎回2つのお店が登場する。1つは「雑貨」、もう1つは「食」をテーマに選び、例えば「木の道具」のお店、例えば「ソーセージ屋」

さん、例えば美味しい洋菓子の「パティスリー」、例えば「抽象画」や「アートアクセサリー」作家などなど個性的でバラエティに富んだお店や作家がカミーノの軒下に彩りを与えてくれる。

また冬の時期には、カミーノを飛び出して、「木組みの家」の木村建設が展開する街中の「はたらくものづくり村」で出張カフェを開く。

なんたって1人で中南米に行っちゃうちかちゃんだから、軽やかに行動に移す。「沼田さんに、『あれもやりたい。これもやりたい。』って言うと、二つ返事で『いいよ!』って。その後に『やるのはキミだからね。』って言われますけどね。へへへへ。」 そうだ!やっちゃえ!ちかちゃん!

 

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2023年4月。足寄の市街で林檎の発泡酒=シードルの醸造所「BLANK HARD CIDER WORKS」のキックオフパーティーが行われた。

自分が子供の頃に農協の購買部だった建物とその隣の「いとうフルーツ」という果物屋さんの建物を蘇らせたこの醸造所に、渡辺町長、丸山副町長を

始め、町の関係者や立ち上げに関わった方々、沼田とちかちゃんを支える足寄の仲間たちが集った。

席上、沼田は「僕自身ビールが苦手で、おいしいお酒がないかと探していくうちに、長野県のハードサイダーというシードルに出会ったんですが、道内には見当たらず、それなら自分で造ろうと思いました。これからも自分で飲みたいものを造り、どこでも手に入らないものにしていきたい」と、シードルを造るに至った経緯と抱負を述べた。

実は、沼田がこの「BLANK」を構想したのは、「カミーノ」を造る事にした時期とほぼ同時期だったという。つまり彼は、2つのプロジェクトを同時に進めてきたのだ。その証拠に、醸造所が出来たのは、2023年だが、「BLANK HARD CIDER」を造り、販売を始めてからは2年の時を経ている。

驚き桃の木山椒の木。ついでに沼田は3年前には「ひだまりファーム」の畑の一角に林檎の木も植えている。

「林檎の栽培方法も知らないのにね笑」この男の「思い立ったが吉日感」はハンパない。恐れ入り谷の鬼子母神の行動力だ。

 

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2019年に足寄産のシードル=ハードサイダーを造ろうと決めた沼田は、翌年からちかちゃんと共に長野県の「林檎学校醸造所」に赴き、「BLANK HARD CIDER」の委託醸造をスタートさせると同時に、本格的にシードル造りを学んだ。そうした準備を経て、2022年満を持して足寄で醸造所作りに

着工する。秋には、余市町を中心とした道産の林檎およそ10トンが、JAあしょろの冷蔵倉庫に運び込まれた。いよいよ足寄での醸造が始まる。

我々、商工観光に関わる地域おこし協力隊も沼田の心意気に共鳴し、シードル造りの場に馳せ参じた。

まずは、大型トレーラーから降ろされた林檎10トンを、パレットに積み替える作業。年が明けて、その林檎を傷んだものと選別し、軽トラで醸造所へ

せっせと運び込んだ。

 

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税務署からの製造許可が下りると、ついに「BLANK HARD CIDER WORKS」でのクラフトシードル造りが始まった。

運び込んだ林檎を洗い、傷んだ部分を取り除いて、クラッシャーに丸ごと放り込んで林檎を粉砕する。その摺りつぶされた林檎を、漉し採る布に四角く広げ、それを幾層にも積み上げて、プレス機で一気に絞る。簡単そうに見えるこの作業が意外に難しく、均等に伸ばさないと、搾りにムラが出て、効率的に搾汁ができない。この仕事は沼田の仕事だ。搾り取られた果汁は一旦小さなタンクに流れ込み、頃合いを見て大きな貯蔵タンクに移し替えられた。ここで1次発酵させる。1次発酵を終えると、瓶詰にして2次発酵。瓶を洗浄し4本ずつ1次発酵した液体を流し込み、この時に酵母の餌となる砂糖を加える。続いて、1本1本打栓。最後にラベルを貼る。2次発酵を終えると林檎の液体は、シュワシュワとした炭酸を湛えたシードル=ハードサイダーになるという寸法だ。

これが、クラフトシードル造りの大まかな行程。もちろん、味を左右する作業や、温度管理など、細かい作業がこの間にもせっせと行われる。

こうして出来た「BLANK HARD CIDER」は、実際に作業に関わった事もあり、格別に美味かった。最初は辛口のみ。林檎だけのものと、足寄産のハスカップやクランベリーなどのベリー類を加えたものの2種類が造られた。更に夏前には、それらの甘口も登場し、全部で4種類の「BLANK HARD CIDER」を味わえるようになった。現在は、「BLANK HARD CIDER WORKS」のECサイト、また道の駅あしょろ銀河ホール21のショップでも手に入れる事が出来る。是非一度飲んでみてほしい。

 

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こうして「BLANK HARD CIDER WORKS」は、無事船出したが、季節は畑作の繁忙期になっていた。

沼田は、農作業と並行して、ハードサイダーの営業などに飛び回っている。彼が始めた事とは言え、傍で見ていても頭が下がる思いだ。

どうして彼はこんな風に動き続けるのだろう?農業を継いで、経営を安定させるのに10年を費やした。「ひだまりファーム」だけやっていれば、安泰ではないか。でも彼は、その歩みを止めない。これは自分の勝手な見方だが、沼田の動きの根底には「のために」という想いがあると感じている。

決して自身だけが得をするためではないのだ。

「カフェ・デ・カミーノ」の時は、「折角、祥悟ががんばってるんだから。」と、仲間が提唱する「木組みの家」でカフェの建物を建てた。

「BLANK HARD CIDER WORKS」の時も、「自分が行動を興せば、自分よりも下の世代の仲間の刺激になり、動き出すかもしれない。」そう考えた。そして、何より「足寄のために」という想いが常にあると思っている。「いやいや町のためにとは思ってないですよ。」沼田はそう言って否定したが、続けて「まあ結果としてそうなったら面白いとは思うけどね。」と言い、「そんな大それた事やってないし。」と謙遜した。

 

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「のために」動きを止めない沼田だが、その沼田「のために」奥様の貴子さんを初めとした沼田家の面々が、支えている事を忘れてはならない。

「もうあきれられてる。」と沼田がそういう貴子さんだが、もちろん林檎栽培の作業はするし、ご両親も林檎を運ぶ際に一緒に作業させていただいた。

また娘さん達は、夏のとうきび売りや、カミーノのお手伝いをしてくれる。そんな家族の存在があって、沼田は自在に動けるのだ。

貴子さんには、本当に頭が下がるが、そんな素敵な奥様だから、内緒で教えとこ。

「奥さーん!沼田さん、まだなんかやろうって考えてますよ!!」 さあ次は一体何をやってみせてくれるのだろう?

 

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3年前に、沼田が植えた林檎の木は今年、見事に実をつけた。冬には、足寄産の林檎100%のハードサイダーを味わえるはずだ。

「この前、足寄高校で話しをする機会があって、君たちの成人式には、足寄産の林檎で作ったハードサイダーでお祝いするからって約束したんですよ。

だから止められないんだよね。」 やっぱり沼田は、「のために」その動きを止めない。

 

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「足寄ひだまりファーム」 足寄郡足寄町螺湾84-2

 

ECサイト  https://ashoro-hidamari-store.com/

 

「Café de Camino」 

Instagram  https://www.instagram.com/cafe_de_camino/?hl=ja

Facebook  https://www.facebook.com/CafedeCamino/

 

「BLANK HARD CIDER WORKS」

公式サイト https://blank-hardcider.com/

 

 

「足寄町ふるさと納税」 

https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html

 

 

※ コラム内の情報は、2023年7月現在の情報です。

 

 

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