ようやく仕留めた獲物は、117キロの大物だった。儀間はその獲物の前足と後ろ足を掴むと、慣れた手つきで運搬用のソリに載せた。
「今日は二人だから運ぶのも楽ですよ。」「初めの頃はビクともしませんでしたからね。」彼はそう言いながら、いとも簡単そうに大きなシカを軽トラの荷台に引き上げた。
国道241号をオンネトー方面に向かうと市街地の外れ、新町に「しかとうさぎ」と書かれた大きな看板が目に飛び込む。ここが元ラーメン屋を利用した
エゾシカの解体所「やせいのおにくや」だ。儀間は自身が仕留めた獲物をここに運び込み、新鮮な内に解体する。この日獲った雄ジカも儀間によって
手際よく解体され、さっきまで草を食んでいたエゾシカは1時間も経たないうちに枝肉にその姿を変えた。枝肉は「やせいのおにくや」の冷蔵庫に吊るされ、2~3日熟成した後、注文のあった料理店などに送られていく。儀間が獲ったエゾシカ肉は処理の速さから臭みもなく、フレンチやイタリアンを初め、札幌や本州を中心に様々な料理店から引っ張りだこだ。足寄では「ダイニングバー ROCCA」や「コビトの台所」で味わう事が出来るがお出かけの際には在庫を確認する連絡をお忘れなく。
(写真提供 ダイニングバーROCCA)
(写真提供 コビトの台所)
「やせいのおにくや」では、エゾシカの肉の販売の他に、加工品も販売している。おすすめは、「エゾシカ肉のグリーンカレー」。十勝管内更別村の
料理家と陸別町の老舗旅館の料理長と共に開発したこのグリーンカレーの缶詰は、2022年に北海道の絶品づくり集団「E-ZO(イーゾ)」が主催する「第7回E-ZO絶品アワード2022」で最優秀賞を受賞した。儀間の獲ったエゾシカの肉がゴロゴロと入っている絶品のグリーンカレーだ。
そして新ラインナップは、「エゾシカ肉のチョリソー」。ピリッとした辛味と、アクセントのナッツの食感が楽しいソーセージ。更には、ペット向けの
エゾシカ肉の加工品なども揃い、どれも「やせいのおにくや」のサイトから購入出来るし、グリーンカレーは「あしょろ道の駅銀河ホール21」のショップ、「KOYA.lab 陵雲荘」など足寄町内を初め、十勝管内のお店で買う事が出来る。是非一度ご賞味あれ。
こんな風にハンターをその生業の軸に据え、ゲストハウスにエゾシカ肉の販売などバリエーションに富んだスタイルで動く儀間は、「インドア派でした。」などという言葉が嘘のように活動的だ。実はこの他にも、足寄・本別・陸別の3町の商工会青年部のメンバーと共に2019年「合同会社三ツ町商会(ミツマチショウカイ)」を設立し、儀間はその会社の社長も務める。この「三ツ町商会」では、クラフトビール「ミツマチクラフト」の開発・販売などを行っており、儀間が狙うのはエゾシカだけではない。
そんな亭主の活動に刺激を受けたのか儀間家のラスボス(?)「儀間芙沙子」が満を持して立ち上がったのが、2022年。彼女は、ラーメン屋だった「やせいのおにくや」の店舗部分を利用して何と古道具屋を始めた。店の名前は「古道具屋 うさぎ」由来は自身が「卯年」だった事と「飛躍」の意味を込めた。
国道沿いの大きな看板に「しかとうさぎ」と書かれているのは、エゾシカ肉の「やせいのおにくや」と、この「古道具屋 うさぎ」を表している。
稀に「鹿とうさぎはどこにいるんですか?」という客が現れるのは、ご愛嬌だ。
先にも書いたが、元々環境について興味があり、環境省の外郭団体にまで勤めていた芙沙子さんは、足寄で移住サポートをミッションとする「びびっどコラボレーション」に勤めていた際、移住者の住まい用の空き家から沢山の家財道具が捨てられていく事に心を痛めていたという。
「丁度、おにくやの店舗部分をどうしようかって話しもしていたし、リサイクルショップ出来ないかなと思って調べてみたら意外と簡単に古物商の資格が取れる事が分かって『よし!やってみよう!!』って。そんな感じでしたね。」それからは知り合いを通じ、足寄町内を中心に近隣から色々な物が集まって来た。
「仕入れは連絡が来たら出向いて、ごっそり持ってくるって感じなんですけど、私はリサイクルをしたいっていうのが一番なので、わざわざ古物市場で
仕入れるみたいな事はしません。」と話し、「この足寄周辺の捨てられるモノたちを救済したい!」と自身の想いを語ってくれた。
更に「面白いですね。やっぱりリサイクル出来てるっていうのもいいですし、古いモノ自体が面白いんですよね。」そう言葉を弾ませる。
「古い農具とかも面白いですし、例えば風呂敷があるとすると一応風呂敷について調べるんですよ。そうすると『風呂敷にこんな歴史があるんだぁ』とか使い方なんかを知ると尚一層、面白いんです。」高価なモノではなくても一つ一つのモノに歴史があり、使ってきた人の想いがある。
彼女は、そこに魅せられるのだろう。
「古道具屋 うさぎ」は、店舗展開だけでなく、十勝管内を中心にお店やイベントに出店したり、足寄の道の駅エリアにある「珈琲座間屋」とのコラボで「喫茶レトロ」などを催し、芙沙子さんも精力的に動き回る。「今後は、もう少し循環させたいなぁって思ってますね。海外のネットショップに出品したりとか。」
そして実は芙沙子さんも、それらの活動だけには留まってはいない。商工会青年部では副部長を務め、青年部の事業であるビアガーデン「ウルトラパンツフェス」では、「美しすぎるビールの売り子」として背中にタンクを背負い、生ビールを売り歩く。更に足寄町の情報を帯広圏に届けるラジオ番組「アショロノコトらじお」(FM WING)では隔週でパーソナリティも務めるなど、何事にも興味を持ち、積極的に関わる聡明な女性なのだ。
儀間雅真・芙沙子夫妻に「足寄に越してきて良かったですか?」と話しを振ると、まず雅真さんが「良かったと思います。」と一言。続けて芙沙子さんが、「足寄じゃなかったらどうなってたんだろうね?」とポツリ。「もっととんでもない事になってたかもしんない!」と雅真さんが答えると二人は顔を見合わせ大笑いした。
そして最後に移住を考えている人に経験者としてのアドバイスをとお願いしてみた。芙沙子さんが、「移住したいと思ったら、1回やってみたらいいよ!笑」そう言うと、「結局、何か所周ってもそこに住んでみないと分からないからどっかで、『エイヤ!』って決断するんだけど、どうせ決断するなら早い方がいいと思う。ね?勢い!!笑」と雅真さんが続く。そして移住した後の事を聞くと、「移住してからは積極的に関わる。行動する。待ちの姿勢じゃ楽しくないから。」と芙沙子さん。
「僕ら宿やりたいからって、動き回ったからこの家と出会えて、今がある。待ちの姿勢だったら、こことも出会えてなくて、何もやれなくて、食っていけなくて、もういなくなってたかもしれない。」雅真さんはそう自分達の歩いてきた道を振り返った。「越してきたばかりの時は、積極的に挨拶に行きましたよね。『移住してきました!』って。みんな『誰やねん?』みたいな顔してた。笑」芙沙子さんがそう言うと、「最初は塩対応でしたねぇ。」と
雅真さんも笑った。そんな塩対応だった彼らや彼女たちは、今はもう儀間夫妻の大切な仲間となった。
本当は人見知りの二人が、足寄に来てゲストハウスを立ち上げ、シカを獲り、古道具を売ったらいつの間にか仲間が増えていた。
それは二人が頑張ったからに違いないが、頑張れたのはきっと二人だったからだろう。
どうぞ足寄に来て、そんな二人の「ぎまんち」に泊ってみてほしい。二人のお家「儀間ん家」に。
接客は苦手だけどね・・・。
「Guest House ぎまんち」 足寄郡足寄町西町2丁目4-7
公式サイト http://www.gimanchi.com
Instagram https://www.instagram.com/guest.house.gimanchi/
Facebook https://www.facebook.com/gimanchi/?locale=ja_JP
「野生肉専門店 やせいのおにくや」
公式サイト https://yaseionikuya.theshop.jp/
Facebook https://www.facebook.com/yaseionikuya/
「古道具屋 うさぎ」 足寄郡足寄町旭町4丁目100-3
Instagram https://www.instagram.com/furu_usagi/
メルカリShop https://mercari-shops.com/shops/ahwH2JAuVzDQhPsBtttfaf
***********************************************
「足寄町ふるさと納税」
https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html
「びびっどコラボレーション」
- コラム中の情報は、2023年12月現在の情報です。