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足寄物語~Ashoro Stories その16 「ホテル・レウス・アショロ / パステル・レウス」

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足寄町商工会の会長を務める「道東舗道株式会社」代表「丸山勝由(まるやまかつよし)」は、足寄で生まれ育った。

昭和30年生まれというから「松山千春(まつやまちはる)」や現在の足寄町長「渡辺俊一(わたなべしゅんいち)」らと同級生となる。自分よりも丁度10歳上の先輩たち、錚々たる顔ぶれだ。大学を卒業後、「帯広信用金庫」に就職。その時代、帯広には今と違い、ホテルが少なかった事もあり、丸山は信金に務めながらも漠然と「ホテルをやってみたい。」と思った事があったという。しかし、そんな夢ともおぼつかない想いは、いつしか彼の頭から離れ、全く違う道を歩んでいた。ところが遥か彼方に曲がっていったあの道が再び彼の歩く道と交差する。

丸山は、2019年8月、足寄町に「ホテル・レウス・アショロ」をオープンさせた。

 

レウス1

 

あしょろ道の駅銀河ホール21から国道242号を北見方面に数百メートル行くと、木をふんだんに使った瀟洒な建物が現れる。

それが「ホテル・レウス・アショロ」だ。2階建ての壁の側面には、アイヌ文様を思わせるレウスのロゴマークがくっきりと浮かぶ。森のフクロウを

模しているのだろう。素敵なロゴだ。丸山は、若い頃の想いとはまた別に足寄にホテル形式の宿泊場所がない事を憂いていた。以前から足寄で講演会やシンポジウムを開いても札幌や東京から招いた講師たちは、イベントが終わると皆、帯広へ宿泊先を求めて帰って行った。「夜、酒でも飲んで話しを

聞けたらどんなに良かったかって。」加えて、帯広、釧路、北見の3都市とほぼ均等距離にある足寄は、ビジネスマンの拠点にもなると睨んだ丸山は、当時の町長や銀行の支店長に相談すると、「そうなんだよなぁ。」と口を揃え、更にはこう言ったという。「丸山さんが、やったら。」随分簡単に言ったものだと思うが、そんなムチャぶりに丸山はこう答えた。「そうだね!」

 

レウス2

 

ホテル・レウス・アショロが建つ場所は、自分が子供の頃はコンクリートプラントだった。

砂利置き場と、生コンの工場、ペパーミントグリーンのコンクリートミキサー車が何台も並んでいたその場所だ。

実はその道東コンクリートと、日景木材、そして今、丸山が代表を務める道東舗道は、丸山の奥様の実家、日景家が経営していた。そもそも日景家は、

2代前の「日景運七(ひかげうんしち)」さんが、1954年に木材会社を創業。しかし、7年後に運七さんが急逝すると、息子の「健治(けんじ)」さんが2代目を継いだ。健治さんは、木材業だけでなく、道東コンクリート、道東舗道と次々と会社を興し、町の名士となる。そんな日景家と丸山の付き合いは、丸山の父が初代の運七さんと飲み友達、2代目の健治さんを弟のように可愛がっていたという間柄で、幼い頃から家族ぐるみの付き合いだったという。だから奥様とは幼馴染。義理の母の「あつみ」さんには、「ガキの頃から知ってんだもん。今でもバリバリ怒られるんだ!ダッハッハッハ!!」

丸山は、そう言って豪快に笑った。

 

レウス3

 

レウス4

 

日景家の一人娘を伴侶にした丸山は、帯広信金を退職し、倒産したコンクリート会社を再建するために転職していた。もちろん、足寄に帰ってくるつもりはなく、帯広に自宅も建てていたという。そんな娘婿に健治さんは、足寄に戻って会社を手伝ってほしいと話しを持ちかけた。

これを承諾した丸山は、てっきり道東コンクリートを任されると思っていたが、義父の指示は「道東舗道をやってくれ。」だった。

素人にはそう大して変わらない業種のようにも思えるが、取引する役所関連が全く異なり、これまでの人脈は全く使えなかった。丸山は、1週間で名刺1000枚を配ったという。そんな努力と苦労を重ねて2006年、晴れて代表取締役に就任すると、自身の会社の事だけではなく、足寄町全体のまちづくりを考え、コインランドリーなどの事業を興した。そんな丸山が、次の「町のインフラ」として手掛けたのが、「ホテル・レウス・アショロ」だった。

 

レウス5

 

レウス6

 

ホテル創業を決心した丸山がまず初めにやったのが、新会社「ASCOM(アスコム)」の設立と、実際に現場を取り仕切る「右腕」探し。丸山が白羽の矢を立てたのが、現在レウスの現場トップである「鑓水浩二(やりみずこうじ)」取締役事業部長だ。鑓水は当時、帯広の電気工事会社に勤めていたが、ある日丸山から「会いたい」と連絡を受けた。居酒屋に呼び出され丸山に会うと「新事業をやるから手伝ってほしい。」と口説かれた。その事業がホテル業と聞き、土木や電気と長く公共事業に携わってきた鑓水は、「お客相手の仕事も面白いかもな。」そう思ったと言う。

妻も足寄に戻りたいと言ってくれたから鑓水は丸山に「一緒に仕事させてください。」と伝えた。ちなみに、鑓水も彼の妻君も、自分とは同級生。

足寄の小中学校からの仲間だ。こうして皆、50を超え、まるで鮭の如く、故郷に舞い戻った。

 

レウス7

 

「ホテル・レウス・アショロ」の建物には、足寄のカラマツが使われている。

丸山は、ホテルを建てる際、足寄の木を使いたかった。更に言えば、日景家が持っていた山のカラマツが丁度50年程の木になっていたからこれを使う。それが丸山の描いたストーリーだった。しかし、ホテルの建設時期とカラマツを乾燥・加工するまでの時間が合わず、仕方なく既に伐採されていた足寄のカラマツと交換し、これを使う事にした。丸山の構想とはほんの少し違ったが、足寄で、足寄の木を使ったホテルを建てる。そのロマンは実現された。しかし、ここから次々と難題が押し寄せる。まず、大手の会社に設計させてみると、丸山や鑓水の構想とは全く違ったリゾートホテル並みの設計図が届いた。これはダメだとまた設計デザイナーを探し、ようやく今のホテルの原型に辿り着く。次の難題は、「工法」だった。当初「CLT工法」という木の板を合板させた材料を使う工法を選んだ。この工法には、環境省からの補助金が最高5億円出るという内容だったのだが、いざ申請すると補助される金額は2億に満たないと診断され頓挫した。仕方なく「鉄筋コンクリートで」となる寸前に、施工会社が「パワービルド」なる工法を提案してきた。この工法は簡単に言うと、足寄のカラマツで集成材を作り、それを釘ではなく金具を使って組み立てるというもので、更には断熱材にもカラマツを使った「ウッドファイバー」を使う事から「地材地消」を実現する事が出来た。こうしてやっとの事で工事が始まった。

 

レウス8

 

外装工事もほぼほぼ終わりに近づいた頃、またも問題が発生する。外壁の木の部分が当初の予定と違い、黒く塗装されていたのだ。

丸山、鑓水、施工担当がこの件についてホテル前で喧々諤々やっていると、すぐ近くのお寺の住職が自転車に乗って通りかかった。

住職は、ホテルの外観を一瞥すると、「こんな黒い建物だったら、また足寄の町が暗くなっちゃうよねぇ。」そう言いながら通り過ぎたという。

丸山は、「ほら!みろ!」とすぐさま外壁のやり直しを命じた。和尚さんのありがたい一言で足寄の町を暗くせずに済んだ。

 

レウス9

 

こうして紆余曲折の末、完成した「ホテル・レウス・アショロ」だったが、素晴らしい施設が出来てもオペレーションやホスピタリティが良くなければ全く意味がない。しかし、鑓水を初め、スタッフ一同、ホテル業はずぶの素人。協力体制にあった札幌のホテル運営会社に研修を受けはしたが、そう簡単に習得できるはずはない。鑓水は言う。「オープン当初は、お客様から『ド素人みたいだな!』って怒鳴られたよ。」更に問題は海外客の対応だった。レウスがオープンした頃はまだコロナ禍の少し前で欧米はもちろん、中国圏や東南アジアからの個人旅行客が地方の町にも訪れていた。インターネットの最安値表示を主張する中国人客とは、長時間のやり取りの末、「わかってくれたんだな。」と思っていたら全くわかってもらえておらず、2人を2,300円で泊める羽目になるなど、そんな事が多々あったという。また笑い話も絶えず、赤ちゃん連れのアメリカ人客とは、スマホの翻訳アプリを使ってやり取りしたのだが、スマホの表示を見せるといきなり相手が笑い出したので、慌てて画面を見てみると、「あなたの赤ちゃんは、ゴジラですか?」と表示されていて、平謝りに謝った事もある。更に「クレームは?」と聞くと鑓水は、「あるあるあるある あるよぉぉぉ。」もうこのリアクションだけで「あるんだなぁぁぁ。」と理解した。「ここでお客さん相手の仕事してみてさ、まぁぁぁぁぁ色んな人間がいるなぁってわかったよ。」

そんな風に言った鑓水の顔はまんざらイヤそうでもなかった。そして「でもね。本当にお世話になってありがとうって、帰りにうちのチーズケーキを

山ほど買ってくれる人もいるのさ。」と目が無くなる程、ニッコリと笑った。

 

レウス10

 

レウス11

 

さて、さりげなく「うちのチーズケーキ」と書いたが、「ホテル・レウス・アショロ」では、ハウスメイドのオリジナルチーズケーキ「レウスチーズケーキ」を製造・販売している。元々のきっかけは、足寄のチーズケーキ工房から事業を引き継いでほしいと依頼されたからだが、当初は、やるのはいいが、一体誰が作るの?これが課題となった。しかしここで一人の女性が立ち上がる。まあ本人曰く「消去法で私に回ってきた。」との事だが・・・。

その女性こそ、丸山社長の奥様で取締役でもある「丸山肇子(まるやまけいこ)」だ。肇子さんは、初め、継承した工房のレシピでチーズケーキを作っていたが、いずれは「レウスオリジナルレシピのものを」と、ケーキ作りと並行して新しいレシピ作りに悪戦苦闘した。丁度その頃、地域おこし協力隊としてパティシエの「中塚隆雄」が足寄に移住。肇子さんは、中塚に教えを請うた。レシピを作るにあたり、肇子さんは「足寄で揃う材料じゃないと無理」と考えていたが、その考えに中塚は異を唱える。「チーズケーキって基本誰でも作れる。だからこそ材料を吟味してより良いものを使ってプロの味にしていかなければダメ。」肇子さんは「その通りだなって。」そこから中塚に相談しながらレシピを作っていく事になるのだが、中塚曰く「作るとかの前の衛生面とか、道具など、基本的なところからだったので、大変だった。」と振り返っている。しかし、肇子さんの意識の高さ、そして何より中塚に対しての「あの味を作れる人だから」という絶対の信頼感が中塚を本気にさせ、何度もやり取りを重ねたのち、およそ1年がかりで完成。

ついに商品として売り出された。

 

レウスチーズケーキ1

 

レウス12

 

レウス13

 

レウスのチーズケーキ部門は、2022年4月に「パステルレウス」というチーズケーキ工房として新しくその歩みを進めた。それまでホテルの厨房を間借りした形で製造をしてきたが、どうしても時間的な制約があった。丸山社長は、「この環境では、どうしてもホテルの付属品みたいになってしまう。チーズケーキはチーズケーキで一人前の商品にしたい。」との想いから工房の建設を実行したという。現在、「パステルレウス」は肇子さんと3名のパートさんでチーズケーキを作っているが、肇子さんは、謙虚に上を目指す。新しい工房を見た中塚パティシエは、「肇子さんから何かあったら言ってくださいって言われたんですけど、いやいや完璧です!って。」「経験が浅い分、日々の作業もゼロから順を踏んでキチッとやっている。一流のトップパティスリーのやり方よりも素晴らしい仕事の仕方をしているんですよ。」そして久しぶりにレウスチーズケーキを試食した感想を、「クオリティが高かった。」と評価。肇子さんの意識の高さがスタッフにも伝わっていて「素晴らしいと思う。」「この短い期間であそこまで持っていくのは、本当にスゴイ!」と

絶賛の言葉しか出てこなかった。「パステルレウス」では、現在プレーンのレウスチーズケーキ、そして工房オープンの新製品として、足寄産のあずきをサンドしたレウスチーズケーキあずきを販売している。レウスのチーズケーキは、「パステルレウス」の店頭とオンラインショップ、そしてホテルでも。更に「あしょろ道の駅銀河ホール21」「JAあしょろ直売所 寄って美菜」「セイコーマート足寄東店」更に陸別町の道の駅で販売している他、足寄町のふるさと納税の返礼品にもなっているので、是非実際に味わっていただきたい。

 

レウスチーズケーキ3

 

レウス14

 

レウス15

 

社長の丸山は、「レウスにしても、パステルレウスにしても町のインフラ。これがある事で、町の交流人口が増えればと思っている。」とこう話してくれた。この言葉にもあるように丸山は、自身のビジネスの事だけではなく、民間の事業者としてどう「まちづくり」に関わっていくのかを見据えている人だ。そして彼は、町の人々の雇用を生み出し、更にその従業員たちの幸せを願う。「このホテルをどんなホテルにしたいですか?」と質問すると丸山は、「一番はお客様に気持ちよく泊っていただく事。」と答えた後、間髪入れずにこう続けた。

「それと同時に働く人が気持ちよく働ける場所にしたい。」素晴らしい考えだ。

 

レウス16

 

レウス17

 

「ホテル・レウス・アショロ」。アイヌ語で「泊る」を意味する「レウシ」を由来に名付けられた。

自分は、町の市街から離れた場所に住んでいるから、お酒を飲むときは毎回レウスに泊る。

落ち着いた館内。笑顔のスタッフ。自慢の朝食では、レウスチーズケーキもいただける。そして自分と同じ時代を、共に足寄で育ったカラマツたちが、友を迎えるように温かく包み込んでくれる。あなたも是非、足寄の木で造られた自慢のホテルに滞在していただきたい。心からそう思っている。

 

レウス18

 

(左から)丸山肇子取締役 丸山勝由社長 鑓水浩二取締役事業部長

レウス19

 

「ホテル・レウス・アショロ / パステル・レウス」 足寄郡足寄町北3条1丁目3-1  (0156) 25-2111

 

公式サイト https://hotel-reus.com/

Instagram  https://www.instagram.com/hotel_reus_ashoro/

パステルレウスオンラインショップ https://pastelreus.base.shop/

 

足寄町ふるさと納税 https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html

 

 

※ コラム内の情報等は2022年7月現在の情報です。

 

 

 

 

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