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足寄物語~Ashoro Stories その12 「しあわせチーズ工房」

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チーズ職人「本間幸雄(ほんまさちお)」。彼の工房はその名前から「しあわせチーズ工房」と名付けられている。足寄町の西部、茂喜登牛の放牧草地の一角にある「しあわせチーズ工房」は日本でも有数のチーズ工房でありながらびっくりする位こじんまりと佇んでいた。高台にある工房の目の前には牧草地が急な傾斜に沿って広がり草が青々と茂る頃には白と黒の乳牛が放牧される。工房は牧草地の一角を切り取って造られていて裏手側は草地と屋根が同じ高さ。夏に訪れた際に牛が上からにゅーっと顔を出し、びっくりした事がある。まるでヨーロッパのチーズ工房を思わせるここで、本間は世界的にも高い評価を得るチーズと日々向き合っている。

 

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本間は1981年、長野県の中央部に近い茅野(ちの)市で生まれた。八ヶ岳や蓼科高原に囲まれた自然豊かな環境は足寄と少し似ているのだろうか。本間は故郷を「のどかなところです。」と語った。

そんなのどかな土地で育った本間少年は子供の頃、自然、農業、モノ作り、そして料理とその後の人生を予感させるようなものにほんのりと興味があった。そんな少年がチーズ作りを意識したのは高校2年の時。テレビをつけるとそこには岡山県でチーズを作っている酪農家の姿が映っていた。

自然と共に自身で育てた牛のミルクを使い丁寧にチーズを作るその仕事ぶりはそろそろ進路が気になり始めた高校生に「面白そうな仕事だなぁ。」と興味を抱かせた。ところが「チーズ職人」になるにはどうしたら良いのか?本間少年には皆目見当もつかなかった。しかし!その年頃の初期衝動はどうにも止まらないものだ。本間少年は直接そのチーズ職人宛てに手紙を書き、教えを請うた。

酪農家だったチーズ職人は「まずは牛の事から勉強したらいい。」と返事をくれた。そのアドバイスを元に本間少年は農業系の学校への進学を決め、両親にその志を伝える。そんな息子の意志を聞き、モノづくりを仕事としていた母はこう言った。「いいと思うよ。」素敵なお母さんだ。

 

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チーズ職人を目指した本間幸雄にとって振り返るといくつかの大きな出会いがあった。1つ目は彼をチーズの世界へと誘った岡山県のチーズ職人。そして2つ目が「共働学舎」だ。1974年、農村の自然の中で、農業と工芸を主体とする生産的勤労生活を目指し設立された共働学舎は全国5か所に拠点を置き、その一つが足寄と同じ十勝にある「新得共働学舎」だった。ここはチーズ作りにおいて日本でトップクラスの工房で、多くの優秀なチーズ職人を輩出している。本間がその「新得共働学舎」と出会ったのは大学時代で、1か月ほどの研修で訪れていた。牛を飼い、ミルクを搾りチーズに加工する。共働学舎は本間が初期衝動を覚えたあのチーズ工房と同じスタイルを掲げていた。学校卒業後は山梨県で新たにスタートした小さな乳製品工場に就職したが、度々「新得共働学舎」を訪れては牛の事、チーズの事を学んだ。

 

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チーズ作りの勉強と実践を繰り返しながら本間は世界各国のチーズの味の探求も怠らなかった。

中でもフランスの「コンテ」という熟成ハード系のチーズに大きな衝撃を受けた。3つ目の出会いである。フランス東部のジュラ山脈一帯・スイスとの国境付近で作られるこの「コンテ」を一口食べた時、「こんな色々な味がする食べ物があるのか!」と感動したという。ハチミツっぽい甘さ。ナッツのような香ばしさ。コーヒーのように焙煎したような風味。自分が作っているチーズとは雲泥の差があったが、なぜそうなるのかその頃の本間には解らなかった。しかし自分が目指すべきチーズの方向性がこの出会いによって決まった。

 

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「今なら解るんですけど、当時は解らなかった。」コンテが何故あんな味になるのか?自分のチーズはなぜ単調な味にしかならないのか?本間は色々な所に出向き勉強したが、その答えはなかなか見つからず、遂には「よくわからなくなってきちゃって」と山梨の工場を辞め、北海道に渡る事を決心する。25歳の時だ。行き先は「新得共働学舎」。「またしっかり勉強し直したい」との想いから、本間は再び新得で酪農とチーズ作りに没頭した。もちろん解らなかった答えを見つけるための探求を怠るはずはない。

休みの日には旭川や十勝の放牧酪農家を巡り、ミルクを分けてもらっては自身のチーズを作り続け、共働学舎の熟成庫で「こっそり」と熟成した。そんな本間が出したあくなき探求の答えは「やっぱりミルクだった。」である。放牧牛はその土地、土地の牧草や雑草を食べており、ミルクの味もそれぞれ違っていた。つまり牛の食べるものの違いがミルクの味の違いとなり、ひいてはチーズの味わいや風味の違いを生んでいたのだ。本間はようやく答えを手に入れる事が出来た。

 

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答えを見つけた本間が面白いと感じたのは「土地の条件」や「牧場主の考え方で変わる飼育環境」でミルクの味が異なっている事だった。「これは放牧酪農の事をちゃんと勉強しないといけない」「知らなきゃいけないんじゃないかなって」そう考えた本間は一軒の放牧酪農家の門を叩いた。それが今の「しあわせチーズ工房」に繋がる大きな出会い、4つ目の出会いだった。このコラムにも登場した足寄町の「ありがとう牧場」「吉川友二」との出会いだ。正確に言えば、本間がミルクを分けてもらった酪農家の中の一つが「ありがとう牧場」で吉川はいきなり現れた本間の話しを面白がってくれたという。また本間も吉川の放牧酪農に対する情熱に感銘を受けたし、なにせミルクの味が抜群だった。「すごく良いチーズが出来た。」そうだ。だから放牧酪農を勉強するならと吉川に師事した。こうして共働学舎を辞めた本間は「ありがとう牧場」での1年間の実習生活に入る。2012年、31歳の時だった。

 

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1年の実習を終えた本間は本州に戻り、牛飼いとチーズ作りをする事を目指した。しかし放牧酪農の実践は本州ではむずかしかった。どうしたものか?と思案にくれていた本間に吉川はいとも簡単にこう言った。「じゃあここでやればいいんじゃない?」そしてそれを聞いた本間もこう思った。「確かに」。

こうして将来的に土地、工房などを買い取って独立する事を条件に「ありがとう牧場」が資金提供し、2013年「ありがとう牧場 しあわせチーズ工房」が誕生した。「しあわせチーズ工房」という名は吉川が名づけ親だ。最初は自身の名前から取ったこの名前は「恥ずかしいなぁ」と思っていたという本間だが、今は「覚えやすくていいですね。『ありがとう牧場』があったから今があるので『ありがとう』から『しあわせに』っていう事で気に入ってます。」そう言うと本間はニッコリ笑った。

 

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「ありがとう牧場」で放牧酪農とチーズ作りを続けて3年経った2016年、「しあわせチーズ工房」は独立した。ヨーロッパの伝統的製法を踏襲する本間のチーズ作りは、銅釜と直火を使って丁寧に丁寧に作られる。「チーズ作りのむずかしさは?」と問うと、ほんの少し考えたあと「誤解を恐れずに言えば、チーズ作りってシンプルで、作るって事自体はそうむずかしくはないんです。」「ただ、放牧酪農のミルクは季節ごとに味が変わるのでなんて言っていいか、一定のレベルに合わせるのがむずかしいかなぁ。」

本間は言葉を選びながらそう答えてくれたが、ここで言う一定のレベルとは「味」を同じにするという意味ではない。同じ味にするなら放牧酪農のミルクである必要がないからだ。本間が言うには製品としてあってはいけない「苦味」だったり「雑味」などが出ないようにする事なのだそう。「工業製品とは違うので全部同じレベルが良いという訳ではないんです。」ここにチーズ作りの極みがあるのだろう。

本間の目がほんの少しの間、職人のそれになった。

 

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チーズ作りの重要な工程の一つに「熟成」がある。温度、湿度を管理し、毎日チーズの状態を見て手当てをする。職人曰く「失敗は小さな変化やほころびの蓄積なんです。」「変化したらそれに対応する。」

少しの変化も見逃さない目を持ち、「息をするように」チーズを見守り、手助けするという。

「チーズは自分の分身みたいなものだから、チーズを良くする事は自分を磨いている事。自分の考え方や技術がチーズとなって表れるんです。」そんな彼にチーズ作りの楽しさを問うと「単純に食べた人がおいしいって喜んでくれるのが一番うれしい。」そう話してくれた。

そんなチーズ作りにかける想いを持つ彼のチーズは国内外から高い評価を受ける。2016年フランスのチーズ協会「ギルド・デ・フロマジェ協会」より「ギャルド・エ・ジュレ」の称号を叙任。

またこれも彼の名前からとった「しあわせチーズ工房」の看板商品「幸」が「ジャパンチーズアワード2020」でグランプリを獲得した。

 

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日本一に輝いた「幸」は、5月から11月の放牧時期のミルクで作る長期熟成のチーズ。「日本のコンテ」と表現する専門家もいて、コンテに感動して味を追求してきた本間にとっての代表作だ。

そして、表面を塩水で磨きながら3ヶ月以上熟成した「しあわせラクレット」は、溶かしてジャガイモやニンジン、パンにかけていただくとそれこそ幸せになる。続いて「しあわせチーズ工房」がある地名をとって名付けられた「茂喜登牛」は、もっちりとした柔らかさとやさしいミルクの甘みに加えて、ホールの外皮にエゾマツの皮を巻き付けて熟成させるのでほのかなエゾマツの香りが特徴的なチーズだ。

そして、そして、ヨーロッパの工房を思わせるチーズが、足寄町内の羊飼い「石田めん羊牧場」の貴重な羊のミルクを使い、半年以上熟成するという「羊のハード」。最後は「ありがとう牧場」のミルクがストレートに味わえる「大空ヨーグルト」。これが「しあわせチーズ工房」の基本ラインナップである。

工房のオンラインショップ、あしょろ道の駅銀河ホール21などでも手に入るし、足寄町の「ふるさと納税」の返礼品にもなっている。

 

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「しあわせチーズ工房」が出来て来年で10周年になる。この10年間で工房と本間の作り出すチーズは足寄の顔となった。では次の10年間を本間はどんな風に考えているのだろう?話しを向けると、穏やかに、しかし凛とした表情で「農村文化作りです。」と答えた。「チーズ作りは酪農文化の一部なんです。」「放牧酪農に可能性を感じているので放牧酪農を軸とした農村文化を作りたい。僕はチーズからのアプローチで可能性を形にしていきたい。」そんな風に語ってくれた。

「しあわせチーズ工房」では今日も本間が息をするようにチーズの熟成を手助けし、一方で茂喜登牛の景色、水、風、光、仲間が、見守るように「本間幸雄」の熟成を手助けしている。

「しあわせになれ!」と。

 

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「しあわせチーズ工房」北海道足寄郡足寄町茂喜登牛141-4 

Tel: 0156-26-2585

Fax: 050-3730-5946

Mail: info@shiawasecheese.com

  • ​来店の際は事前にご連絡をお願いします。

 

公式サイト https://www.shiawasecheese.com/

Facebook   https://www.facebook.com/shiawasecheese/

 

足寄町ふるさと納税ページ 

https://www.town.ashoro.hokkaido.jp/citypromotion/furusato-nozei/furusato_c.html

 

※ 各情報は2022年3月現在の情報です。

 

このページの情報に関するお問い合わせ

足寄町役場 経済課商工観光振興室商工観光・エネルギー担当

電話番号
0156-28-3863(直通)

足寄物語

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